Law & Order UK 1-4 Unsafe 「因縁の棲家」

 
UK1-4「因縁の棲家」のベースはプライムの4-8「過去から届いた挑戦状」。元エピソードはドラマチックな緊張にみちており、これをリメイクするのは野心的な試みだと思います。

さらにプライム4-8は演出に微妙なユーモアが混じっています。ストーンはエピソードの大半をピンチに陥って過ごすのですが、その悩みは敗北感や意地、失策を上司に責められる情けなさなど、身近で現実的なもの。ジェリコ・イバネク演じる犯人もサイコ・キャラながら妙にコミカルな感じがあります。

UK1-4では、スティールの悩みはもっと高尚な、被害者遺族に対する罪悪感ですが・・・ 私としてはなぜ彼がそこまで彼女に入れ込んでいるのか分からなくて話に乗りそこねました。クリスマスカード毎年送るって、ストーンやマッコイにそんな余裕はなさそうですが。CPはADAより扱う事件の数が少ないのかしら。

そんなことを考えていたもので、ストーリーより演技の細かいところに目が行ってしまいます。ベン・ダニエルズ、駐車場で犯人と対決する場面の怒りの表情でお気に入りの俳優となりました。両目が激しく左右に動くのは強い感情の揺れをあらわすお作法で、他の人でもみかける所作ですが、いままで見た中でいちばん激しいかも・・・きっと得意技なんだろうけど、気分悪くならないですか?って心配になるくらい。マイケル・モリアーティはこの技をあまり使わないけれど、そのかわり会話の合間に目がさっと動くのが対照的です。

そして余裕たっぷりに去っていく犯人の後姿を見送りながら、鼻水を手でぬぐうスティール(笑) ええ、検事さんそこで泣くんですか?と思ったけど、実はオリジナルのエピソードでもストーンが半泣きのシーンがあるんですよね。被告人への反対尋問を完全に論破され、シフに「敗北宣言したらどうだ、素人にやりこめられおって」と叱られるところ。あの「半泣きストーン」は本当に笑うところ(で、ストーン可愛いじゃないか!と思わされるところ)なので、「半泣きスティール」もつい笑ってしまいます。

演技対決、といえば・・・ クライマックス近くで、殺された共犯者の運命を同房囚人から聞き出すところ。のらくらと追及をかわそうとする囚人に迫る検事。
[ストーン] Russel Bobbit. Accessory to murder, Mr. Doyle. Russel Bobbit.
[スティール] Parole board.

ここのストーンの必死ぶりはすごいです。低い声で「ラッセル・ボビット」と共犯者の名前を繰り返すだけなんですが、サイコなのはこの検事のほうじゃないかと思わされるくらい。スティールにはそういう感じはあんまりなくて、もっとストレートでしたな。

セリフも比較してみると面白いです。今回だと"water under the bridge" という表現が両方に使われてたり(でも違う場面)。ローガンが "Hey, Georgie!" と叫ぶ場面はデブリンが "Oi, Freddie!" だったり。ひとを呼ぶのに「オイ」って言うんですね、イギリス人。

ティールが昔のニュース映像を見ながら「あんなに自信満々で・・・」とつぶやく場面は、ストーンの名作エピソード3-13「夜と霧」で彼が自分の姿をテレビで見ているところを思い出しました。

1シリーズ見たところでの感想は、UKのほうが「悪と対決する正義の検察」を感情的に強調する演出であり、プライムの抑えた演出とは同じ題材でもずいぶん違うものになるな、と思わされます。どっちがいいかは完全に好みの問題ですね。

ストーンの時代は、L&Oでも伝統的なドラマ作りをひきずっている点が多少あります。ストーンがカッターやスティールと似ている点は、感情的な不安定さや弱みを垣間見せることが魅力の大きな一部であるところですが・・・ その成り立ちが少し違う。最後で述べます。 

ミニマルな演出の極北はプライムの中期だろうと思います。初期よりさらにハードボイルドになり、マッコイは視聴者の感情の面倒をほとんど見ることがなく、演出側に立ってドラマを展開させる舞台装置として機能しているように見える。その分、キャストに要求される演技のレベルも高かったと思います。

プライム後期はL&Oといえど演出の傾向が一般的になってきたので、カッターもスティールも感情移入しやすいキャラクターになってますね。演出と一体となった演技であるように感じられます。きちんと考えて設計され、綿密な打ち合わせの上、信頼おける演技力で実現されたという感じ。

しかし私としては、L&Oの真髄は「ミニマルな演出と、その枠からはみ出すような演技」である、と思ってます。EADAをストーンからスティールまで並べてみると、「演出からはみだす」傾向はストーンが一番強いかもしれない。先日の掲示板での議論やモリアーティの自伝のとおり、ベン・ストーンは作られたキャラクターではなく、モリアーティその人であったのだと思えばうなずけます。

大層な言い方をすると、ベン・ストーンはそういう意味で特別であり、だからL&Oのすべての検事の原型となりえたのだ、と言えるかな。UKをネタに結局はストーンを語ってますね・・・