1974年トニー賞授賞式

 
マイケル・モリアーティの過去作品のうち、1973年の舞台Find Your Way Home が気になっていて、原作を読んだり映像や写真を探したりしていたんですが、その関連でやっと見つけたのがこちらの、1974年トニー賞授賞式のテレビ放送の録画です。なんと40年前。

トニー賞は今や日本でもテレビ放映されてるみたいですね。豪華な顔ぶれのプレゼンターやいろんなパフォーマンスが楽しめるのは昔も今も同じ。ただ、アカデミー賞エミー賞より地味なのは当時も否めなかったようで、この番組も最初にでてくる夫婦の小芝居でちょっとした自虐ギャグがあります。

夫        「早く早く、エミー賞だぞ」
妻        「あら違うわ、これオスカーよ」
アナウンサー 「ブロードウェイから生中継でお送りします!・・・・・第28回トニー賞授賞式!」
夫婦       「何それ?!」

2時間半、十分楽しんでいただいたところで、主演男優賞の発表はいちばん最後です。プレゼンターは大女優ベティ・デイビス。候補者は5人。

http://youtu.be/qWfRrQtL9Bc?t=2h37m02s

ステージに上がったマイケルは、「この挨拶を捧げたい人は・・・」と話しはじめます。
The words I have to say are dedicated to John Hopkins, Ed Sherin, Rick Hobard, Bill Devane, and to my wife Françoise.

ここで名前を挙げられている人々についてちょっと解説しますと、
ジョン・ホプキンズ Find Your Way Home の原作者です。
エドシェリン おなじく演出家。彼の映画デビュー作 My Old Man's Place の監督でもあるし、Law & Orderのエグゼクティブ・プロデューサー でもあります。
リック・ホバード おなじくプロデューサー
ビル・ディベイン 俳優ウィリアム・ディベイン。 My Old Man's Place や1975年の Report to the Commissioner で共演していて、友人なんだろうと思います。

スピーチの本文は短くてすぐ終わっちゃいます。スター俳優とはとうてい思えない内気な様子でぼそぼそと話し、逃げるように舞台の袖に消えるのが、かえって他の人と違って印象的です。

The theater has always been the place to me where I have been obligated as an actor and a member of the audience, to not be afraid of who I am, what I am, or what I could be. When the magic of the theater surrounds me, that kind of fear always leaves me. It is then that I learn about who I am, what I am, and what I could be. And that knowledge about myself is not important for the theater: what is important to the theater, I think, is the fact that I can share with people, not just the knowledge but the moment when I am not afraid. And within the moment, I think, more than just myself accepts who I am, what I am, and what I could be, I think we accept who we are, what we are, and what we could be: and even more miraculously, that experience helps us to accept what we have been. I want to thank the theater for having already given me a life, filled with riches beyond my wildest dreams. Thank you.

ぼくにとって演劇とは常に、演者としてであれ観客としてであれ、自分が誰なのか、何者なのか、どんな存在になるのか、に怯えずにいるための場でした。演劇の魔術に包まれるとき、そういった怖れはすべて消えてしまう。そして自分が誰なのか、何者なのか、どんな存在になるのか、を見つめることができる。ぼく自身を知ることは演劇にとって重要なことでない。重要なのは、そうやって知ったことだけでなく、怖れないでいられる時間を人々と共有できることだと思う。そういう時間の中で、ぼく自身が自分が誰なのか、何者なのか、どんな存在になるのか、を受け入れるだけでなく、われわれ全員が自分が誰なのか、何者なのか、どんな存在になるのか、を受け入れるのです。そしてもっと素晴らしいことに、そういう経験が、われわれが過去の自分を受け入れる助けともなってくれる。演劇は、ぼくが想像もしなかったような豊かさに満ちた生活を与えてくれました。そのことに感謝したいです。


繰り返しが多いわりにはわかりにくい文章で、彼の書くものにもよく似ている感じがします。同じ人なんだからあたり前か。だけど自分が何者なのか知るのが怖い、でも探し続けている、という切羽詰まった感じはよく伝わってきます。

Find Your Way Home の主人公であるゲイの若者ジュリアンも、年上の恋人に去られてから自分を見失い、行きずりの関係を繰り返してみずからを傷つけるような生活をしていましたが、最後には恋人を許し、自分自身を受け入れる。そういうことも影響しているのかも、と思いました。