アーサー・ブランチ

 
Law & Order の放送をあまりちゃんとフォローしていない私は、アーサー・ブランチ登場を今ごろになって観ました。いやーこの人、見ていてものすごく違和感があるんだけど、それがイイんですよね。

まず浮かぶのは「この人、本当に役者かしら?」という疑問です。セリフ回しはほぼ同じ調子だし、視覚的にはあんまり動かない上にでかいと来ている。そのせいで、ほかは達者な役者ばかりの、演技の流れがそこだけ止まってしまう気がする。なめらかな川の流れの中に、岩のように居座っている感じです。

ところがその岩の存在感というかどっしりした重みが半端じゃない。ブランチの現実感によって、初期シーズンが持っていたドキュメンタリー・タッチが戻ってきたともいえます。彼が画面に映っていると、そこだけ別次元から何かが突き出している感じすらします。これが違和感の正体ですね。ドラマに打ち込まれた現実の錨というところ。

そして、演技的にはこの障害物のせいで川の水流が渦巻いたり波立ったりするのが面白い。サム・ウォーターストンの、岩とのたわむれ方が見もの。といつも思ってます。相手が岩で、自分のセリフに対する反応というのはあまり期待できない分、自分でリアクションするしかないわけで。だからスティーブン・ヒルダイアン・ウィーストみたいな名優を相手にしているときより、多少オーバー気味な演技になってると思います。マッコイを見ている分にはこれが楽しい。

私、一時期アメリカン・プロレスにはまったことがありまして*1、あれは格闘技じゃなくダンスとして見るとすごく面白いのです。その方面では「上手いプロレスラーは箒を相手にでも試合ができる」という言い方をします。相手がしょっぱい(下手な)レスラーであっても、ちゃんと見せ場を作ることができるという意味。

ブランチと話すマッコイを見ていると、箒というか岩を相手に踊るサムの姿が背後に浮かんでくるのですよ。


ついでに、いつもながらこれがマイケル・モリアーティだとどうなるか、と考えてみたりするわけです・・・ ベン・ストーンとアーサー・ブランチ。どうでしょうね。上手いのは間違いないし、岩を相手にでもバレエを見せてくれるだろうとは思うのですが。なにしろ、「相手役が前にいない方が演技しやすい」人だから。ただ、彼の場合は何をやっても「モリアーティ劇場」になってしまうので、普段と変わりないかもしれない。そうするとこの、ブランチ対マッコイの面白味みたいのは出てこないかもですねぇ。
 
 

*1:If you smell what the Rock is cookin'! の時代