Law & Order 6-21 Pro Se  「妄想と現実の狭間で」

 
シーズン6、先週放送された分です。ラストが泣けました。

デニス・オヘアの演技が見事、この人、4-2 Volunteers「善意の人々」で迷惑ホームレスをめった打ちにして「社会の脅威となったのです」とストーンに言わしめた役もやってました。今回はストーンじゃなくマッコイでよかったと思います。なんというかこの話は、ストーンだと危ない感じがして安心して見られない気がする。まさかモリアーティとサイコ演技合戦にはならないと思いますが(笑)その分ストーンが引いてしまって、被告の狂気をちゃんと受け止められないような・・・それこそ妄想ですけど。

前半だいぶん飛ばしまして、自己弁護(原題Pro Se)を選択した被告、心神喪失による無罪を申し立てます。マッコイ、一人で拘置所へ被告に会いに行く。ここの対決よかったなぁ。「心神喪失について私と争うつもりか?この件については私は専門家だ、鏡の裏も表も知ってる」たしかに、法律家としても患者としても。マッコイは「陪審は君を治すつもりはない、死ぬまで閉じ込めたがる」という。マッコイのセリフって比較的聞き取りやすいです。発音がはっきりしてるだけじゃなく、言葉の後の確信がそのまま聞こえてくる感じというか。

「自分が殺した人間を気の毒に思わないのか」との質問に「気の毒には思うが、あの怪物は私じゃない。彼の罪をかぶるつもりはない」と答えるスミス。

オリベット博士との面談。スミスが向精神薬の副作用の辛さを告白するところがあまりにリアルで、オリベットの証言よりずっと説得力がありました。こうやってまともに話するには全身で努力しなければならない。現実にしがみついているだけでものすごく疲れる。手を放すことは...ほとんど救いなんだ。 

被害者の証言、被告弁護人(兼、被告人)はうまく検察への反感を引き出す。状況が不利なので取引の可能性をさぐる検察。姉から話をしてもらう。スミスは受け入れない。「負けると思うから来たんだろ。最終弁論ももう書き終えた。陪審に聞かせるのが待ち遠しい」自信があり、自分の有能さを証明したがっているんです。それを見た姉が証言台に立つという。

姉が弟の言葉を証言する。辛いです。副作用に耐えて薬を続けても雇ってもらえない。意味がないじゃないか。自分の居場所はどこにもない。バルコニーから飛び降りたくて、アパートの14階を借りたんだ。姉が「誰かがついていないといけないんです」と私見を語ったところで、判事が異議があるかと尋ねますが、スミスは首を振る。それまではなんとかまともに見えたのに、首を振り続ける様子が、異変の始まりを告げているよう。反対尋問もしなかったんでしょうね。そして取引に応じる。

法廷での司法取引。判事の言葉を冷静に聞き指示に従っているようだったが、罪状を書いた紙が針だらけだと言い出す。(このイメージ、生々しいです。自分を糾弾する言葉が並んでいる紙に針がびっしり生えているというのは、論理的にすら聞こえる。)ティックは消え、急に自由になったかのように意味の通らない話を始める。混乱する法廷。マッコイが助け舟を出し、判決が言い渡される。目の前でひとりの魂が崩壊するさまを見て、判事もさすがに感情を隠せない様子。椅子に抑えつけられたまま、肩で大きく息をつくスミス。

オフィスにて。マッコイの暗い表情の意味は・・・・・スミスは姉の証言の後に薬をやめていた。勝てないと悟ったというより、姉の気持ちに動かされ、釈放されることをあきらめたのでしょう。その代わり、正気の世界を去る前に、最終弁論の原稿をマッコイへ送ってきた。全身全霊をこめて書いた弁論を誰かに、その価値を理解できる誰かに読んでほしかったのだ。それはマッコイも認める通り、評決不能に持ち込めるくらいよく書けていた...
 

***********
 

実は私、ドラマとか映画で泣くことってあんまりないんです(ストーンでわあわあ言ってるわりに、映像には書物ほど反応しない)。でもこの話にはつい涙が出そうになりました。自分の意志で薬をやめ、混迷におちいる前に最後の「作品」をマッコイへ送ってきた主人公の願いが心に突き刺さるようで。それが誰かに読まれる頃には本人はもう何もわからなくなっている、という点で、SF小説の名作『アルジャーノンに花束を』(ダニエル・キイス)を思い出したのもあります。近づいてくる黄昏の中でチャーリーが書き続けた日誌。あるいは思い出したのはそれじゃなく、誰かさんがアルコール依存の霧の向こうへ消える前に書き残した本なのかも。