ストーン、マッコイ、カッター


タイトルだけ野心的ですが、たぶんストーンの話ばかりになるかと(笑) この前の記事で、ベン・ストーンの「vulnerability=あやうさ」が魅力だって話をしましたが、じゃあその危なっかしい感じはどこから来ているんでしょうか?これがなかなかはっきりと名指しできなくて難しいんです。

おそらく一番はセリフに表われていないところだと思います。脚本上のストーンは愚直な正義感を持った人物で、そのままだと単調になってしまいそうなところ。これが内側に怒りとか罪悪感とか女性に対する怖れとか、自分でもワケのわからないものをいろいろ閉じ込めている複雑なキャラクターになっているのは、やっぱりマイケル・モリアーティ本人の解釈・・・ いや解釈というか自分自身を表出しているせいだと思います。

初期の副プロデューサーのジョー・スターンが「キャラクターを語らずして表現できる俳優を選んだ」と言っていたとおりです。

サム・ウォーターストンはまたちょっと違う。彼はもっと言葉を使います。ただ、自分を語るのでなく、語り部なんですね。

キャラクターとしてのマッコイは、自分自身と仕事との間に距離をおく方法を、ストーンよりよく知っているように見える(もしかすると、クレア・キンケイドの悲劇が影を落としているのかもしれませんが)。そのせいで、すくなくとも表面上は感情的に安定している。そのぶん冒険ができるので、難しい社会問題にもいろんなアプローチで挑戦できるし、ときには狡猾な策を弄することもできる。

人物としてはストーンの方が好きですが、ドラマの面白さということではマッコイに一票・・・ と思います。

私の好きなマッコイ・エピソードには二種類あって、ひとつは正統派エピソード。8-5「法と自由と正義」はマッコイというよりサム・ウォーターストンに建国の歴史から説き起こされるのがなんか嬉しいのです。なんといってもリンカーンを演じてる人だし(架空の大統領もあり)。もう一つはゴリ押しマッコイ。副大統領を起訴しようとしたり、15-7「知事の恋人」みたいに分かってて無茶な戦術を使ったり。

二人の違いがわかりやすく出ているところというと衣装です。ストーンの衣装は以前に研究しましたが、4年間ずっと同じテイストの衣装にこだわり、それ以外で出てきたことは一度もない(「ベン・ストーンの衣装棚」を参照)。これが硬直したキャラクターの脆さをよく表しています。マッコイはそれより柔軟で、ドレスダウンするときはする。

せっかくなのでカッターの話も。よく言われる通り(本当か?)話のバランス上、カッターはマッコイよりストーンの方に似ている。正義にこだわりすぎ、余裕のなさが弱味になるところ。その弱さや幼さが母性本能をくすぐり女性を惹きつけるところ。このあいだ観たエピソードで、ロースクールの恩師に挑戦して手ひどい反撃を受け、法曹資格剥奪の危機、という話がありました(20-16「証拠なき犯罪」)。しかも懲戒委員会を逃れたと思ったら上司のマッコイに追い討ちをかけられるというカワイソウな状況で。あれはさすがに引き込まれました。

ただ、最後の方で被告人相手に八つ当たり気味にキレるところなんかは、ストーンみたいな屈託がなくストレートで気持ちがいいです。我慢して我慢して、さいごに爆発してすっきり、ってエンタテインメントの王道ですね。

「主人公が窮地におちいる話」ってドラマではお約束ですが、Law & Order では多くはない。刑事&検事はじつは主役でなく狂言回しっていうことの証明でもあります。

ストーンをいじめて喜ぶ話は二つ。2-13「知略の攻防」(ストーン、アーサー・ゴールド弁護士にひっかけられるの巻)と 4-8「過去から届いた挑戦状」(むかし有罪にした詐欺師にリベンジされるの巻)です。どちらも自分の野心をコントロールできない、あぶなっかしいストーンがたまりません。ああ、1-15「欲望の奔流 前篇」なんかもそうですね。

アーサー・ゴールドはマッコイとも何回か対決していると思うけど、ストーン時代ほど印象に残っていないです。ゴールドはストーンの弱味をピンポイントで突けたけど、マッコイにはそんな弱味がないのかも。マッコイが苦手な弁護士というと、魔術師ドウォーキンでしょうか。カラフルで笑えるけど結構深いキャラで、マッコイが嫌そうな顔をするのが楽しいという(笑)
 

・・・・・ほかにも、「身体的に危害を加えられる」とか「怪我している」のも、保護本能を刺激されるという点では反則なみの強力さがあります。三人ともそういうエピソードあり。またいずれ、その話も。