Law & Order 1-3 The Reaper's Helper 「死神の使い」

 
L&Oの事件被害者といえば、だいたいは死体で出てきて顔が映ることもほとんどない名前だけの存在で、どんな人物だったか想像してみることもなく忘れられてしまいます。しかしこのエピソードの被害者ボビー・ホランドは、生前の苦悩ぶりが両親や知り合いの証言でだんだんと浮かびあがり、気がついてみればストーリーの前景にいる登場人物たちよりも強い印象を残します。

ゲイである自分はどう生きればいいのか。エイズ感染がわかってからは、どう死ねばいいのか。自殺すべきか、助けを得るべきか。ボビー自身が答を出せなかった疑問が、裁判のゆくえを左右します。登場人物も、視聴者も、証言を追いながらなんとかしてボビーの心を知ろうとすることになります。

ボビーの父親、ホランド氏を演じているトム・シニョレッリは、"Bang the Drum Slowly" (1973) でベテランキャッチャーの“グース”役だった俳優です。モリアーティの“アーサー”が最初に秘密をうちあける相手。考えてみれば、あれもおなじく不治の病に侵されたスポーツ選手(ロバート・デニーロ)をめぐる話でした。

今回は逆に、ホランド氏の方がストーンに秘密を明かします。息子が死にたがっていたのは本当だ。私に銃を渡して、撃ってくれと頼んだのだから。3-15「母の愛」での母親の告白と対をなすシーンです。

のちに彼が法廷で弁護側証人としてこの話をしたとき、陪審席からはすすり泣きが聞こえます。

だが、ストーンの質問で、ボビーが一方では死ぬのを恐れていたことが示される。けっきょく、彼がどう感じていたかは、誰にもわからないのです。


被害者のドラマに話がいっちゃいましたが、このエピソードはゲイの権利と死ぬ権利というセンシティブな社会問題が主題であります。人種や中絶などの主題のせいでスポンサーが広告を引きあげることは何回かあったようですが、なかでもこれが最初のケースだったそうです。

ゲイの権利擁護派の抗議のせいで、マスコミは検察対ゲイの対決をあおる。ストーンは「ここで微罪にしたら、それは真の共感ではなく憐憫だ、そして憐憫は軽蔑の一歩手前なのだ」と主張する。ストーンらしい潔癖な正義感です。。。が、この鬼検事、人間くさいところもあるようですね。検事局に侵入したゲイの権利活動家に殴られ、その上、被告もエイズ患者だと発表されたことで、もうやめようと言い出す。

起訴を取り下げる材料をさがすため、鑑識を夜中に働かせる(迷惑な)。 翌朝、シフから取り下げの許可を得ようとする。シフの正面にいるカメラの前を、歩きながら何度も横切るシーン、揺れる心情があらわれてますねぇ。しかし、かかってきた電話は模倣犯が出たとの知らせ。自分は鬼検事の役を演じつづけるしかない、というあきらめの表情がたまりません。

被告の証言のあとに、弁護人がローガン刑事を証人に呼ぶ。ここから、それまでのシリアスな調子と一変して、ひねりの利いたオチにつながっていきます。ただこのオチのせいで、ドラマとしてはちょっと弱い感じになったのは否めない。最後のシーンはにやりとさせられるし、それなりに印象的だし、ストーンのとぼけぶりは好きなんですが・・・ 階段を降りていく後ろ姿がまた萌えポイントです。