Law & Order The Unofficial Companion つづき

 
Law & Order The Unofficial Companion からもう一度。こんどはベン・ストーン検事のキャラと俳優マイケル・モリアーティについて書いてあるところを引用します。1990年、番組が始まった当時にカナダの新聞に載った評からの抜粋です。

(p. 140) 1990年のトロント・グローブ&メイルは、モリアーティのことを「求道者の威厳をもちながらどこかに傷つきやすい印象があり、かくて、彼の演技はどれも目の離せない緊張感をおびることになる」と表現している。

「傷つきやすい」はvulnerabilityです。ぴったりする日本語の訳がなくていつも困る単語。繊細さとはちょっとニュアンスが違って、攻撃に対して弱い、あるいはみずから危険を招きやすい、というような意味なんです。不安定、もろい、と言ってもいいかも。まさにストーンの「はっきり名指しできないけどどこか危うげな感じ」をいいあらわす言葉です。

同じことがもっとカジュアルな受け止め方だと「鬼検事のくせになんだか妙な隙がある」になるわけですね。

これ、モリアーティ本人のキャラクターとともに童顔のルックスも貢献しているんじゃないかと思います。上級地方検事補として被告や証人の人生を左右するだけの力があるのに、その権威をまとっているのが子供のような顔をした人物だというギャップ。そのアンバランスさが抗いがたい魅力となっているのだと。この感じはストーンだけでなく他の人物、とくにエリック・ドルフにあてはまると思います。

もうちょっとこの線で。おなじトロントの新聞で、1995年、マッコイ登場後の記事として、

(p. 36) 1995年のトロント・グローブ&メイルに載ったある評によると、マッコイは「モリアーティのベン・ストーンより感情的に安定している。ストーンには・・・今にもたがの外れそうなあやうさがあった」

となっています。5年たってストーン評が変わってないところがすごいです。同じ評者なのか。*1

マッコイの名前が出たので二人を比較しているところを。プロデューサーのアーサー・フォーニーによると、

(p. 36) 「マイケルからサムに交代した時、番組自身も変化した。俳優の反応のしかたや台詞回しが違うので、それに合わせて編集スタイルも変わった。マイケルは視線ひとつでいろいろなことを表現できたが、サムなら台詞をひとこと付け足したりする」

モリアーティとウォーターストンの演技スタイルの違いが簡潔に表わされていて面白いです。こういう情報、意外と少ないので貴重だったりします。

私は以前から、「法廷シーンは絶対ストーンよりマッコイの方が迫力ある」と思ってました。弁護士との舌戦や最終弁論などでのサムはまさに舞台俳優という感じ。ちょっと引いた位置から、全身でもって言葉を届けるところが素晴らしい。この方面で好きなエピソードは 8-5 "Nullification" (デニス・オヘアがゲストの民兵の話)です。

それに対してストーンは細かい表情や仕草が味わい深いので、オフィスでごちゃごちゃ交渉してたり、法廷でも黙って成り行きを見ているときの反応がお気に入りです。話しているときより雄弁で「視線ひとつで画面を支配する」ことができるのがマイケルなのです。

さて最後に、もう一か所ストーンとマッコイの比較を。

(p. 225) プロデューサー兼脚本のマイケル・チャーナチンが考えるストーンとマッコイの違いは:「ストーンは正義にこだわり、マッコイは勝って犯人を投獄することを望む。ストーンがボーイスカウトだとすれば、マッコイは拳銃を帯びた勇士(パラディン)である」

ボーイスカウト”はストーン・ファンにはちょっと気に入らないかも?でも、ストーンの融通のきかない性格は、幼さのあらわれとも解釈できる・・・まあ私はいつだってストーンを語りながらモリアーティ本人を語っているのですけどね(笑)
 
 

*1:この本の共著者のひとりは同紙に書いているそうなので、自分の記事って可能性も・・・