ベン・ストーンの死 (The Gift of Stern Angelsより)

 
予告していたとおり、マイケル・モリアーティの日記 The Gift of Stern Angel から、ベン・ストーンとの別離の部分を引用しましょう。

以前に「ベン・ストーンとの最後の日々」で紹介したように、L&Oの撮影が終わる直前、モリアーティは次の舞台『マイ・フェア・レディ』にヒギンズ教授役での出演が決まっていました。この時期の彼は、検閲に反対する自分の主張が受け入れられないことに憤り、メディアの反応に一喜一憂し、L&Oから追い出されたことにプライドを傷つけられ、新しい舞台に期待をかけ・・・と、嵐のような心理状態で暮らしています。

そんなある晩、彼はベン・ストーンがいなくなろうとしているのに気がつきます。

(p. 133)  私はベン・ストーンが去っていくのを感じる。自分の中で、彼のペルソナが死に始めていることを。悲しいことだが避けようがない。彼は私が思っていた以上に人格を持った存在だった。ベンの台詞を私が言っているだけだと思っていたが、そうではなかったらしい。彼は道を譲ることを、ヒギンズに舞台を明け渡すことを、死ぬことを恐れていないようだ。そう。ベン・ストーンは自身の死を恐れていない。

うう。エピソード4-19 Sanctuary のラストでドアから出ていってしまうストーンを初めて見たときの感情がまたこみあげてきます。

たぶん、何年にもわたって演じるテレビシリーズのキャラクターは、映画の登場人物とはまた違った影響を演じる人に与えるんでしょう。ストーンとモリアーティの関係は、本人が思っていたより深いものだったようです。しかしここの文章からは、モリアーティが次の仕事に向けて意識を切り替える以前に、状況のどうにもならなさから、ストーンとのつながりを失ってしまったという印象を受けました。

あるいは、ベン・ストーン自身が状況を悟って、みずから歩み去ったのか。

いや。ここはこれ以上生半可な解釈はしないで、素直にモリアーティの言葉を聞くだけにしましょう。生みの親のひとりである俳優からこんな風に敬意と愛惜をこめて送り出してもらえる登場人物は、幸運なのかもしれない。


しかし生身の人間が年老いていくのと違って、映像の中の人物は何年たっても色あせないで新しいファンをつかむことができます。その意味では、ストーンは死んではいない。モリアーティ自身も「猫にマタタビ」の通りストーンのことは諦めていないようです。ものすごく月並みな言い方ながら、ストーンはファンの心の中に住んでいるし、その後のL&Oのキャラクターにも反映されて生き続けていると思います。