Law & Order 16-6 Birthright  「虐待の連鎖」

 
ポール・ロビネット弁護士、ふたたびの登場です。忠実なファンとしては見逃せません。しかし検事補時代のロビネットにはファンも多かったけど、6-14「子を盗む」での転向はネットで見る限りどうやら不評だったようです。私のようなロビネット・ロイヤリストは少ないらしい。

前回登場エピソードでは貧しい黒人の母親を「システムの犠牲者」として弁護したロビネットです。ところが今度はまた正反対ともいえる、貧しい黒人の母親をモグリの不妊処置で死なせた看護師を弁護するという立場です。このせいで最後のシーンでマッコイに「なんでこんな依頼人を?」とまた不思議がられてしまうわけですね。そういえば前回、判事の忌避という荒技でマッコイを出し抜いた時は、判事の優生論的発言を盾に取ったのでした。

検察パートの中盤は、この看護師のような優生論的思想が認められるかどうか、という議論に終始します。もちろんマッコイも認めない立場ですが、世間ではこのような思想は実は根強くはびこっているのだ、といくつも例をあげて説明しています。ナチ時代ドイツの双子研究で有名なメンゲレ医師も、のちの台詞で出てきます。

検察の立場は一貫しません。まず第二級故殺で起訴、次にブランチの強硬論で第二級謀殺に変更、その後でマッコイがまた第二級故殺を追加しようとする。その朝令暮改ぶりに、ロビネットでなくても「どういうつもりだ」ってなりますが、これが世論の揺れを表しているわけです。

さて、その故殺2を追加する場面──かなり終わりの方です──の字幕について気がついたことを。

判事:   (故殺か謀殺か)どちらかにすべきだと思うわ
マッコイ: 選択肢を与えるのは合法です
判事:   陪審員たちにはすみやかに審議させたいの。議論を長引かせると、誤った論理がまかり通ってしまうわ
マッコイ: 陪審は被告人がナチスのメンゲレ医師ほど悪いか考える必要はない

あとの2行、ちょっと分かりにくくなかったでしょうか?太字の「議論を長引かせると誤った論理が通る」というのは、判事の意見としてはやや不自然だし、次の台詞のメンゲレも唐突な感じがする。

元の台詞と、私の解釈(例によって芸のない直訳です)は次の通り。太字の部分では、実はSoloman判事の父親がユダヤ人迫害の被害者であることが示され、メンゲレにつながっていきます。字幕ではこのセンテンスを「すみやかに」という訳に合わせるため大胆に変えてあるのが分かります。*1

I'm not sure you should have it both ways, Mr. McCoy.
(謀殺と故殺の)両方選べるようにするべきか確信が持てないわ。

The law allows them to consider all the options.
法律上は、陪審はすべての可能性を検討できます。

Not necessarily. And I'm inclined to see them pressed to respond. When Nazi sent my father to Dachau, it was because the people who knew it was wrong didn't get mad enough to stop it. 
必ずそうしろというわけではない。それに、私としては陪審には責任を果たすよう迫りたいナチが私の父をダッハウに送ったとき、それが正しくないと知っていた人々が憤って止めなかったのがいけなかったのよ。

判事の言葉を聞いたマッコイがほんの少し頭を下げたのはこういうわけです。

Much as I would like them to, the jury should not have to believe that Nurse Rhodes was Joseph Mengele to think she broke the law.
責任を果たしてほしいのは私も同じだが、陪審がローズ看護師を有罪にするのに、彼女がヨゼフ・メンゲレだとまで信じる必要はありません。


私は、判事の方が謀殺一本で陪審に厳しい判断を迫りたかったんじゃないかと思いました。マッコイはそれに対し、被告を有罪にするための現実的な方法を提案しているのだ、と説明。判事はそれに納得する。自分の厳しい態度は、個人的経験に影響されすぎている、と気づいたのかもしれない・・・・・というのは、見た後でだいぶん悩んでひねりだした、かなり苦しい解釈です。ここやっぱり難しいですわ。って、自分で持ち出しておいてお手上げかい!(笑)

一方、ロビネットはこの場面で「彼女はメンゲレではない」に反応してます。最後のシーンにつながるカットですね。

結末は謀殺2では無罪、故殺2で有罪。ロビネットは上訴するつもりですが、検察側は彼女の余罪について起訴すると言います。

バーにて。マッコイがロビネットに、「なぜあんな依頼人を引き受ける」と聞きます。ロビネットはそれに答えてマッコイの危惧を裏付けるようなことを言います。しかも「あなた自身も彼女がメンゲレでないと認めただろう」と。マッコイの嫌そうな顔でエンド。

ありゃー、ロビネットまた悪役でしたね。ファンがさらに減ってしまうではないか・・・・・ でも来シーズンでもう一度出番があるんですよね。観たことあるエピソードだけど、当時は彼のことを知らなかったので楽しみです。他のファンはどうでも、私は諦めないからね、ポール。
 
 

*1:「すみやかに」という部分に"press"という動詞が使われており、その解釈が分かれ目だと思います。字幕は「急がせる」という意味に取ってるけど、「強要する、迫る」という意味にも取れる。