Bang the Drum Slowly 『バング・ザ・ドラム』

1973年作品。MLBの架空チーム「ニューヨーク・マンモス」が舞台。マイケル・モリアーティはエース・ピッチャーのヘンリー・(アーサー・)ウィギン、メジャーになる直前のロバート・デニーロが、成績いまいちなキャッチャーのブルース・ピアスンを演じています。以下ネタバレあります。

ヘンリーはスター選手で、本も出してるしMLB中の選手に保険を売りつける商才もある。万事そつのないニューヨーカーのヘンリーと違って、ブルースはジョージアの田舎者。皆からちょっと見下される存在です。彼をからかったりいじめたりする選手もいて、ヘンリーもどちらかというとそっち側なのです。

しかし、ある年のシーズンオフ、ブルースは不治の病と診断されます。そのことはチーム内ではルームメイトのヘンリーしか知りません。ヘンリーは彼をかばうようになり、秘密を隠し通そうとします。球団に病気がばれて解雇されないように。
 
シーズンが進むにつれ、選手の間にはだんだんとブルースの話が広まり、それとともにチームの雰囲気が変わっていきます。ブルースをいじめる者はいなくなり、人種ごとの壁も崩れてチームワークが向上し、戦績も上がっていくのです。

ストーリーの合間に、MLB選手の日常生活も描かれます。テグウォーと称するカードゲームで部外者をカモったり。テグウォーとはルールのないゲームの意味で、皆ワケわからないうちに負けていくので、見ていて爆笑ものです。オフにはシンギング・マンモスというバンドでテレビに出たり。これも楽しい。細かいところではヘンリー=MMが口ベースでミュージシャンの片鱗を見せてます。

その間もヘンリーはずっとブルースの庇護者としてふるまい、彼を励まし続けます。
宿舎のホテルの部屋で、明け方に具合の悪くなったブルースが「みんな優しいな。俺が死ぬのを知ってるのかな」と言ったときのヘンリーの台詞。

"Everybody knows everybody's dying, that's why people are as good as they are." 
「みんないつか死ぬってことはみんなが知ってるんだ。だから優しいんだよ」

そしてヘンリーは小さい弟を慰める兄のように、怯えたブルースを抱きしめてやります。

でも全体としてあまり湿っぽい感じはしない。ヘンリーが何かを隠しているのを疑っている監督をごまかすため次から次へと作り話を繰り出すところなど、笑いが止まりません。シンギング・マンモスの曲もゴキゲンです。

タイトルのBang the Drum Slowly はトラディショナルの曲"Streets of Laredo" の歌詞から。胸を撃たれ、若くして死にゆくカウボーイの嘆きです。雨で試合が中断した日、ロッカールームで新入り選手がギターを弾いて歌い始める。ブルースのことを知っているチームメイト達は歌を止めようとするけれど、ヘンリーは結局続けさせます。誰もいないグラウンドに降り注ぐ雨に、美しく悲しいバラードが重なります。

 ・・・俺の骸を運ぶ間、太鼓をゆっくり打ち鳴らせ。棺をいちめん覆うよう、バラをたくさん載せてくれ・・・

マンモスはリーグ優勝がかかった試合で勝利。しかしその後の消化試合のあいだ具合の悪かったブルースはユニフォームのまま病院に担ぎ込まれる。プレーオフの前、ヘンリーとブルースは来年春のキャンプで会おうと言いかわして別れます。でもその約束は果たされません。ヘンリーのモノローグで、チームがワールドシリーズ優勝したことと、ブルースの葬儀にジョージアを訪ねたことが語られます。

キャラクターがすばらしい。ヘンリーとブルースに加えて、鬼監督(ビンセント・ガーデニア、この役でオスカー候補になった)、自己破産するベテラン選手、ギター弾きの新人キャッチャー、テグウォー好きのコーチ。みんなそれぞれ問題をかかえながら、ユーモアと友情と野球への情熱で結びついているのです。

この作品、派手ではないしそれほど知られていないようですが(日本版DVDはない)、ひいき目を差し引いても佳作といえると思います。気持ちが弱ったときに見返したくなる感じ。(ネットにはアル・パシーノが好きな映画に挙げてる、という噂が出回っているけれど、それは元情報を確認できなかった。)

マイケル・モリアーティのファンにとっては、若い頃の彼がどれだけハンサムだったか分かる嬉しいフィルムです。その顔に少年ぽい笑みとか、友への気遣いとか、耐え難い悲しみとか、いろんな表情がくるくると浮かぶのは、ベン・ストーンを見慣れた目には新鮮であります。楽しそうに野球をやっているのもいい(ピッチングシーンたくさんあり。身長以外、さすがにメジャーリーガーには見えませんが)。野球好きさんなら、もっと楽しめることでしょう。