Live at Fat Tuesday's
8月にマイケル・モリアーティのCD2枚が届いたときにまとめて紹介してますが、どちらかというとスタジオ盤のSweet 'n' Gritty の方を先に聴いて、ライブ盤Live at Fat Tuesdays は後回しになってました。このところこっちのライブを気に入って聴いてるので感想を書こうと思います。でもインストの曲について書くと無知がばれるので、ボーカルありの曲とMCだけ(笑)
トラック5 "Miles"
この曲だけはピアノをマイケル・レンハートにまかせ、たぶんステージの中央に出てきてスタンダップで歌ってます。そして少しだけキャラを作って歌ってる感じがします。1コーラス歌ったところでハーモニカに持ちかえ。クロマチックハープの音色ですね。ライナーノーツには「ハーモニカは最近始めた」とあります。器用な人だなぁ。
これはイアフォンで聴くことをおすすめ。ハープのところで微妙な息遣いが聞こえますよ。音楽の楽しみ方としては邪道ですが(笑) ボーカル→ハープ→サックス→ハープ→ボーカルの5コーラスで終わっちゃうのが残念。とてもスイートな感じなのでもう少し長くやってほしかった。
曲はたぶん彼のヒーロー、マイルズ・デイビスへのトリビュートなんだと思います。Why do I have to walk for miles? で始まる歌詞は言葉遊びですが、こんなところもあります。
マイルズとともに歩め
マイルズとともに走れ
そうすれば帰る道がみつかるだろう...
トラック7 "Bach Is The Only God I Pity"
このアルバムで一番好きな曲です。「次はバッハだよな?」とバンマスのベースに確認。「この曲のタイトルは...」ベースがリフを弾きはじめると、「遅くしすぎないで」。ベース、テンポを変える「それでいい」。ここ、どう聞いても最初の方が速いんだけど、手振りで"Slower," とやったあとに"not too slow" と言ってるのかもしれない。テンポが決まったところで、「この曲のタイトルは、’バッハは私が憐れむ唯一の神...彼はブルースを聴いたことがない’」 客席から笑い。私も後半はジョークかと思ったんだけど、本当にそういう歌だった。
コード進行は変形ブルースという感じ。テーマに続いてトランペット、テナーサックスのソロ、どっちもすごくスリリングです。歌いまくるベースと3連のリズムを永遠に聴いていたい気がする。そして最後にボーカル。
私は憐れむ、バッハがブルースを知らなかったことを
彼がいちどもブルースを耳にしなかったことを
ブルースは熱すぎて手に負えない (ここで客席から同意の声)
燃えるろうそくを手に持っていられない
J.S.のサンダルの紐を結ぶことも
もしもベッシーが彼のクワイアにいたなら、
彼女は聖歌隊をさらなる高みへ導き
教会は彼女の炎で燃え上がっただろう (ここ、ボーカルもベッシーと共に舞い上がろうとして、天井にぶつかってしまう)
ベッシーとはブルース歌手のベッシー・スミス。ブルースおたくのうちの家族に「ベッシーがバッハの聖歌隊にいたらどうなったと思う?」と訊いてみると「考えられない」と一蹴された。ベッシーは知っててもバッハを知らない奴に聞いたのが間違いでした(苦笑)
それはともかく、この曲はクラシックとジャズの両方を作曲したりするモリアーティならではの発想です。巨匠バッハがブルースを聴くことができたら、どんなすごい音楽ができただろう、と妄想してるわけです。
「サンダル」のところでお客が笑ってるのは、韻の踏み方がちょっと苦しいからだと思います。"handle" "candle" ときたのは良かったけど、次が"sandal" しか思いつかなかったんでしょうか(笑)J.S.はもちろん大バッハの名前。
なお、前回Sweet 'n' Gritty に入っている "Peacocks" について、モリアーティがライナーノーツで『ラウンド・ミッドナイト』を観てこの曲に取り憑かれたと書いていることを紹介しました。その後この映画を確かめたら"Peacocks"は2回出てきましたが、どちらも演奏シーンではなく、バックグラウンドでほんの30秒ほどかかるだけ。気をつけていないかぎり聞き逃しそうな断片でした。