Law & Order 2-2 Wages of Love 「愛の代価」

 
ストーンが「腹も減ったし」と言って取引に応じるのを覚えてたエピソードです。地味目な話ながら、女が相手だとどうしても冷静になれず判断を誤ってしまうストーンの描写が楽しめます。そしてジェリー・オーバックが弁護士役でゲスト出演してるのも注目。

犯人は、ストーンの敵となったほかの女性と違って、大金持ちでも女王様でもなく普通の中年主婦。でもこれが実にしたたかで、動機やアリバイについて嘘をつく、息子に偽証させる、お涙ちょうだいの演技で陪審を騙そうとする。争点は、愛人とベッドにいる夫を見て逆上して撃った=故殺、対、事前に計画して襲った=謀殺。ストーンは、彼女は殺意をもって現場へ行ったと証明しようとします。

アパートの鍵が文字通り事件のカギに。息子の持っていた鍵から合鍵を作った人物がいる、というので息子を締め上げる。母親を信じていた息子は打ちのめされる・・・ レーマン弁護士が慰め、ストーンさえ辛そうな顔をしている。この場面、息子役の演技に加え、モリアーティとオーバックのサポートも光ってると思います。この俳優さんは、L&Oクリミナル・インテントの1-3でも母親に恋人を殺された息子役をやってました。

検事長室にて。ストーン「離婚した直後は私だって妻を殺したかったが」と発言。笑ってほしそうにロビネットの顔を見るが、相手が真顔なままなので下を向いてごまかしております。そんな余裕があるのは、息子の証言で勝ちが確定だと思ってるから。それに対し、シフが若い頃に楽勝と思った事件の評決が6日かかったという話をする。

取引の交渉。12年の刑のオファーで、被告がレーマン弁護士の制止を振り切って反撃します。自分をないがしろにした夫への恨みを語り、あたしはもう誰の犠牲にもならない、と宣言する。あー駄目だよ、ストーンは女に挑戦されるのがいちばん苦手なんだってば。なんだか、勝たないと自分の男としてのアイデンティティが崩壊するような恐怖を感じるらしいの。

法廷にて。鍵のことを証言させようとした息子が偽証する。母親が仕向けたと悟るストーン。うはは、この場面すごいです。横を向いて口を少し開けるだけでこれほど凶悪な怒りを表現できるとは・・・ ここから女性相手にムキになるストーンの本領発揮です。息子を追い詰めすぎ、以前の証言は脅され強要されたものだと言わせてしまう。楽勝だったはずなのに、ここで裁判の流れが変わって被告側有利に見え始める。

被告人の証言。若い女と一緒にいる夫を見たときの心情を涙ながらに語り、よよと泣き崩れる。反対尋問を、と言われた時のストーンの嫌そうな顔・・・。

さて、腹が立って仕方がないストーンは、ある作戦を考えつく。故殺での訴因を取り下げ、謀殺一本でいくと。泣き落としにほだされた陪審が故殺で妥協するのを防ぐ、一か八かの賭けです。それを聞いたシフは面子にこだわると負けるぞと言いますが、「女が憎い」モードに入ってるストーンは言うことを聞きやしない。「入院したら花を送ってやる」と言って出ていくシフ、ちょっと傷ついた顔をするストーン(可愛い!)。

あまり盛り上がらない最終弁論のあと、判事から謀殺の評決に必要な条件について陪審に説明があります。それを聞いているストーンの反応。最初は背筋を伸ばしていますが、途中で身じろぎして肩を落とし、いつもの猫座り(背中を丸めて顔だけ上げてる)になる。早まったか、と後悔し始めているように見えます。

いつも言っていることですが、モリアーティって喋っていない時の微妙な演技で本当にたくさんのことを表現してると思います。一見すると地味なんだけど。このエピソードは特にそういう場面が多くて、見返すと味わいがある、という回です。

その日の夜。オフィスで落ち着かなく歩き回っているストーンと、それにつきあっているロビネット

Never seen you like this before.   こんなあなたを見るのは初めてだ。
I have never done anything this potentially stupid before.   これほど馬鹿な賭けに出たのは初めてだ。

ばくちに負けるのが耐えられないなら、故殺の保険をかけたままにしておけばよかったのに・・・ いやしかし。人間にはそれぞれ苦手な状況があり、そういうときは判断を誤ったり馬鹿なことをしたりしてしまうものです。私自身、さいきん忙しい中である判断をし、それが間違っていたかもしれないという疑いに数日間苦しめられたことがあったので、このストーンには妙に同一化してしまいました。"Potentially stupid" とは、まだ決まったわけではないが、(無罪評決が出れば)大失策となる可能性がある、というような意味。

陪審は夕食を注文したらしい。評決はまだまだ出そうにない。そこにレーマン弁護士から電話。向こうも焦っている。第一級故殺二件、九年で取引すると。答を求めるようにシフの顔を見るストーン。

Your case.     君の裁判だ。
And my stomach.  腹も減ったし。

閉廷後。陪審員たちがもう少しで有罪評決のはずだったと取材に答えている。息子を操って偽証させたことが嫌悪を誘ったのだ。残念!もうちょっと空腹に耐えれば勝ちだったのにね、ストーン。



故殺で妥協されそうな場合、謀殺一本に絞るという作戦は、別にストーンのオリジナルじゃなく、実際の法廷でも使われる戦法らしい。というのも最近The True Stories of Law & Order という本を買って拾い読みしてるところです。L&Oのエピソードのネタになった実際の事件を25件ピックアップして解説したもの。その最初の事件で、検察がこの戦術をとって敗れたことが書かれていました。

この本、なかなか面白いです。上の話はどのエピソードかわからないんだけど、分かったのといえば3-3 "Forgiveness" (貧しいメキシコ移民の息子が名門大学で裕福な娘とつきあったが、振られて殺した)や、2-10"Heaven"(中米系移民のダンスクラブでの火事)。最近放映していたメアリ・ベル事件(10歳の女の子二人が小さい男の子を殺した)もありました。似たような本もいくつかあるみたい。