"Q" ラリー・コーエン監督コメンタリー

 
"Q: The Winged Serpent" のDVDにボーナスで入っている、ラリー・コーエン監督コメンタリーです。「サム・ウォーターストン&マイケル・モリアーティ」の記事で一部紹介しましたが、それ以外でマイケル・モリアーティを語っている部分を抜粋します。

映画は1982年公開、コメンタリーの収録は2003年。コーエン監督が画面を見ながらインタビュアーと話してます。見ていない方には何のことやら、かもしれませんが、監督のモリアーティに対する評価が非常に高いのと、またそれだけでなく「変わった人」で通っていた彼の人となりをよく分かってくれているように思えるので、ぜひご紹介したいと思いました。

では行きますが、まず一応おことわりを・・・この映画、私はモリアーティ作品としてすごく気に入ってますが、怪獣映画だけじゃなくグロ映画の側面もあって、死体がいっぱい、新鮮なのも古いのもゴロゴロ出てくるし、残酷なシーンもあります。なので、買ったり借りたりなさる場合はそれをご承知おきくださいませ。なお日本版は『空の大怪獣Q』というタイトルでVHSが出ていたようですが、DVDは見つかりませんでした。「バーのシーン〜ピアノのシーン」と「ジミーの嘆き」は、動画サイトにも上がってます。

【オープニング】私はある映画の製作現場でクビを宣告され、別の作品を撮りたいと思った。撮影は1週間以内に始めてすぐに終わるつもりだった。幸運なことに、レストランでたまたま隣のテーブルにいたマイケル・モリアーティと会って脚本を見せ、OKをもらった。その場で友人のデイビッド・キャラディンに電話して、内容も見せないで承諾をとりつけた。

【最初の犠牲者のシーン】マイケル・モリアーティは私の映画への出演はこのときが初めてで、その後3回出てもらっている。業界では気難しい役者として知られていたが、私はいつも楽しく仕事していたね。

【バーのシーン】撮影初日、待ち時間にマイケルがずっとウォークマンをかけていたので、何を聴いているのか尋ねると、イアフォンを寄越した。聴いてみると彼が自作の曲をピアノで弾いてスキャットしている。彼は映画でこれをやりたいんだと言った。素晴らしい、と私。ジミー・クインのキャラクターを書き変えて、ジャズピアノ弾きになりたい男にしよう。ミュージシャンとしてまっとうに働きたいと思っているのに仕事にありつけなくて、金のために宝石強盗に加担することになるんだ。モリアーティは自作の曲をやれることになってすごく喜んだ。

【ピアノのシーン】その日のうちにピアノのあるバーを探すようスタッフに頼んでおいて、私はモリアーティと一緒にシナリオを書き直しはじめた。それからというものの彼は私を気に入り、頼んだことは何でもやってくれた。他の監督のような問題は全くなかった。私が作った「マイケル・モリアーティ・ソング」に大喜びだったし、機嫌が悪そうなときはエド・ウィンの物真似をしてやると、ひっくり返って笑い転げていた。楽しい奴だよ。

【ジミーの嘆きのシーン】この映画はキャラクターから作った。モリアーティはユーモアをもって役を作ってくれたし、キャラディンも素晴らしい。・・・・・この映画は人間劇として作ったんだ。モリアーティの役でもってコメディ要素を付け足したが、完全なお笑いではない。彼がそこをうまく演じてくれたおかげで、キャラクターが生き生きして感情移入できるものになった。

【モリアーティはチームプレイヤーか?】ああ、即興が好きだし上手かったね。撮影しながら私がその場で頭に浮かんだセリフをどなると、彼がそれをどんどん演技に取り入れていくので、あとで私の声だけ編集で消せばよかった。他の俳優とも同じやり方を試したが、マイケルほどうまくいかなかった。あれほど演技に集中する人はそういない。そしてコントロールが完璧なんだ。

そしてこの後が、モリアーティが相手役なしで一人で芝居したがった話になります(8月10日8月11日の記事)。

【市警本部の会議室にジミーが入ってくる】この場面の彼の動きを見てくれ。普段の彼は Law & Order のような堅い役が多いが、ここでは力の抜けた自由な動きだろう。のちにスピルバーグに会ったとき「どうやってマイケル・モリアーティからあんな演技を引き出した?あんな彼は見たことがない」と言われたよ。「役のせいさ、彼が役を気に入って、入り込んでたから」と答えた。まったく、オスカー級の演技だよ。

モリアーティは『ホロコースト』でゴールデングローブ賞エミー賞を獲っているが、そのせいで病んでしまって、悪役はもう二度とやりたくないと思ったそうだ。彼は役に入り込んでしまうんだ。あのナチ将校の役は彼の心に長く続く傷を残した。彼はここ数年いろいろ問題があったようだが、"DEAN"でカムバックを果たしエミー賞を受賞した。立ち直ってくれることを祈ってるよ。彼は優しい魂の持ち主、いい奴で、最高の役者だ。

【ラストシーン】この映画は良いキャストに助けられた。特にマイケル・モリアーティの素晴らしい演技に。彼のおかげで、作品の質が一段と高いものになったと思う。



・・・・・最初の方で、主役には(当時無名の)エディ・マーフィを使おうかと思ったとか言ってる割にべたぼめな評価です *1。 ある程度は映画のハイプでしょうが、それだけでもない気がします。ラリー・コーエンはこの後2006年の『マスターズ・オブ・ホラー』でまたモリアーティを使ってます。

一方モリアーティはあるインタビューで、コーエン作品への出演はキャリアの品を落とす、と周りから反対されたけれども、どうしてもやりたかったんだ、と語っています。コーエン監督は、役者としても人間としてもマイケルのよき理解者だったんじゃないかな、と思いました。『ホロコースト』の話は監督が撮影中に本人から聞いたのでしょうか。他では読んだことがなかったです。

他に、クライスラー・ビルディングの尖塔で撮影するのに許可を取ってなかったとか(モリアーティがうずくまってる30cm先は88階の虚空です)、別のビルでは撮影後に巨大な卵と巣の大道具を撤去しなかったので、あとで発見されて大騒ぎになったとか、「今だから言える」裏話も。

*1:そして、やっぱり無名時代のブルース・ウィリスを知っていたのでキャラディンの代わりに使おうとも思ったのだとか。この映画、もしかするとエディ・マーフィブルース・ウィリスという組合せになってたかもしれないわけです。