Law & Order 4-9 Born Bad 「片隅の少年たち」

 
世間は Law & Order: UK の話で盛り上がっているこのごろ・・・ いつも周回遅れの私は第2話をいまごろ見まして、でやっぱりストーン時代のオリジナル・エピソードを思い出してそっちの話をしたくなってしまいます。

かなり好きなエピソードなのに感想書いてなかったのは、記事にするための核というか柱が見つからなかったせいなんですが、このあいだクイーンのアルバムを聴いていてこれだ!と思いました。そう「ボヘミアン・ラプソディ」なんですこの話。

知らない方のためにちょっと解説しますと、ロック史上もっとも有名な曲のひとつとも言われております。ふとしたことで人を殺めてしまった少年の告白と苦悩を歌うバラードから始まるのですが、途中で一転してオペラ風となり、彼を救おうとする天使の軍勢と、地獄に落とそうとする魔王の勢力との戦いになる。その間で木の葉のように翻弄される人間・・・ ああ書き方が下手なせいでお笑いみたいに聞こえますけど、本当は何度聴いても鳥肌の立つ、映画一本分以上の内容がある名曲なんです。

オペラ・パートでは、少年を許してやろう!という天使勢と、いや逃がしはしない!という魔王の綱引きが展開されます。このエピソードでの「天使」は少年の里親と、ヘレン・ブローリン弁護士ですね。彼女は被告を少年法のもとで裁こうと奔走します。

それに対し、ストーンは「魔王ベルゼブブがぼくのために用意した悪魔」ということになります。キンケイドも同じ、彼女が会いに行った少年事件専門の弁護士も、こんなことを言ってるから同類みたい。

From what I read, Chris Pollit should be riding the ferry on the river Styx.
ファイルの内容からすると、彼はステュクス川を渡る船に乗っているべきだ。
  
字幕:地獄送りになるべき犯行だ

検察側が被告の前歴を暴いたせいで家裁への移送が却下されると、ブローリン弁護士は「XYY染色体のせい」という強引な説を持ち出す。ムチャなのは自分でもわかっていて、「判事を一人説得するより十二人の陪審員を混乱させるほうが簡単なのよ」という。

この、ストーンとブローリンが街頭で議論する場面はなかなか面白いです。依頼人を守るためには何でもやる、という彼女のプロ意識にストーンが(心の中で)敬服しているのが見えるからです。この二人の間にはプロ同士で通じ合うものがある。

だが、「被告の邪悪さは生まれつきである」という彼女の主張が、人種差別をあおるという形で世論に与えた影響に、ストーンは強い嫌悪を示す(シフの部屋で新聞の投書欄についてしゃべっている場面)。おそらくそのせいで、遺伝子説に乗っかった母親の証言を論破するのにいささかやりすぎな質問をします。

少年にとってとどめの一撃となる言葉が悪魔ストーンでなく、誰よりも愛してくれるはずの母親のものであるところが痛切です。“ラプソディ”のロックパートで、自分を見捨てた母への怒りが歌われるのとも呼応してます。

しかし法律家二人にとってはこれも仕事上の丁々発止にすぎず、バーの場面では取引を決めたあとに仲良く飲んでたりします。まだ子供の被告を、自分たちがどう傷つけたか、眼中になかったんですね。被告の少年は、ギリシャ神話で神様どうしの戦いに翻弄される人間っていうところです。

翌朝になってそれに気がついたストーンですが、いまさら悪魔から天使に転向したいといっても、魔王シフには当然許してもらえません(笑)

You want them to start naming churches after you, I'd get another profession.
お前が教会に名前を遺したいというなら、私は別の職を見つけるよ。
  
字幕:聖人を目指すなら、転職しろ


ラストの場面は珍しくタグ(締めの会話)がなくて、少年の絶望がアップになったところですとんと暗転する。やりきれない気持ちにさせられます。
What's the point...   意味ないさ・・・

このセリフも、フレディの諦観のつぶやき(風がどちらへ吹こうとも・・・)と似ているのですよね。


最後に、UKのエピソードについてちょっとだけ。ラストシーンでスティールにわざわざ説明に出向かせることで、視聴者の感情を処理してありました。これは好みの問題ですけど、私は解決策を提示しないプライムの演出のほうがL&Oらしいんじゃないかと思いました。

キャラクターの中ではやっぱり検事に目が行きます。ストーンによく似た感じの人を探してきたな、と思います。口許にいつも何かをこらえている印象があって、ストーンの「何かを抑圧している感じ」を彷彿とさせる。こらえているのが怒りなのか、それとも笑い出しそうなのを我慢しているのかはわかりませんが・・・ こういう謎のある感じ、やっぱり好き(笑)