A Return to Salem's Lot  『新・死霊伝説』

 
ハロウィーン・ウィークエンドだからホラー映画いきます。"Report to the Commissioner" にしようと思ってたんだけど、それよりふさわしいのを忘れてました。ラリー・コーエン監督、マイケル・モリアーティ主演、"A Return to Salem's Lot" (邦題『新・死霊伝説』)。バンパイアものです。買ったのは米国版DVD-Rで、日本版VHSもあるにはあるみたい。

このところすっかりラリー・コーエン監督ファンになってる私は悪くないと思うんだけど、ネットではだいたい低評価です。これには事情があって、別の監督による『死霊伝説 セーラムズ・ロット』という作品が先にあり、それはスティーブン・キングの原作に忠実で、傑作とはいかないまでもそこそこの評価を得ているらしい。ところがこちらはまあ、別物、別ジャンルなんですね。『空の大怪獣Q』と同じく、コーエン監督はホラー映画のフォーマットを使用しつつ、他の要素をたくさん詰め込もうとしている。そしてあまり説明ということをやらないのでストーリーが分かりにくい。ちょっと無理やりな比較だけど、Law & Order のエピソードが話の密度が高く、1回見ただけでは全体を把握できないのと似ています。

問題はワーナーがこれを、もっと標準的なエンタテインメントだったオリジナルの続編として作らせ売り出したことで、シリーズものだと思って前作と同じ路線を期待して買ったホラー映画ファンは当然裏切られて「なんじゃこりゃぁ!」 「ワケわからん」という評価になるわけです。怪獣を期待して『Q』を観るとがっかりするのと同じ。

IMDbのユーザーレビューを見ても、だいたいが「買ってはいけない」 「時間の無駄」 「マイケル・モリアーティがこんな作品に出てるなんて(泣)」という論調です。中にはこんなのも。

ホルスタインばっかりの牛舎で’ジャージー種の牛乳はうまいんだ’っていうセリフで、構想段階から問題があると知れる」

突っ込みどころはそこかい!って笑っちゃいました。書いたのはテキサス人らしいけど。ですが2割くらいは好意的な評が混じっていてる。とくに「話は破綻気味だけど、出演者たちの演技がすばらしい」というのがいくつかあります。ニューイングランドの田舎紳士・アクセル判事や、映画監督サミュエル・フラーの怪演がよろしい。それと、美少女アマンダを演じたタラ・リードは、6才のころからCMの女王だったとか。
 

さて、あんまり期待をあおらない前振りが終わったところで、ストーリー&感想いきます。ネタバレあります。

人類学者のジョー(マイケル・モリアーティ)は、息子のジェレミーと一緒にニューイングランドの田舎町セーラムズ・ロットを訪れる。亡くなった小母さんから相続した家を見に来たんです。着いてまもなく、そこがバンパイアの町であることが明かされます。クララ小母さんも実は彼らの仲間で生きている。

可笑しいのが、この吸血鬼だけの町がなかなかよく統治されてること。人間の血は特別な機会にしか吸わない。日常の食事用には牛を飼っているんです。ジョーにちゃんとプラントツアーまでやってくれます。ホルスタインが…というのはこの場面。さらに笑えるのが、吸血鬼のリーダー、アクセル判事が牛舎を案内しながらジョーにする説明。

「味は人間の血が一番なんだが、最近はドラッグにアルコール、肝炎だのエイズウィルスだので安全と言えないのでね」 わはは。バンパイアも健康に気を遣っているんです。

バンパイアたちの目的は、人類学者であるジョーに町の歴史、「バイブル」を書いてもらうこと。そのためにいろいろと誘惑があります。ジョーもジェレミーも、それぞれの年齢に合った可愛い子ちゃんをあてがわれて、父ちゃんの方はさっそく妊娠させちゃったりする(笑)

翌朝、ジョーがジェレミーに訊く。「お前、ゆうべ女と寝たのか?」 12才の息子にする質問でしょうか(笑)自分は息子を放り出して、「永遠の17才」の吸血鬼とよろしくやってたくせに・・・

ジョーは町に留まるつもりになって、家を修理したり著作の口述にとりかかったりしてる。ジェレミーの方はバンパイアの仲間になりたいと言いだす。

だけど息子が本当にバンパイアに生まれ変わりそうなってるのを見て、ジョーは目が覚めたらしい。薬で眠らせたジェレミーをかついで逃げ出そうとし、失敗して息子を人質にとられてしまう。引き換えに「バイブル」を書く仕事を続けさせられることに。あるときは丘の上でジェレミーの幻影を見て、「息子を返せ!」と誰にともなく叫ぶ。

姉妹作の『悪魔の赤ちゃん3』と同じく、親子の絆がここでも鍵なんですね。実はジョーは離婚したあと南米で調査してたりして、ジェレミーとは3年も会ってなかった。口の悪い、タバコ吸いまくりの、手のつけられない息子を元妻から押し付けれられて持て余してたけど、やっぱり愛してるんです。

町のダークサイドは「ドローン」と蔑称される、バンパイアと人間のハーフ。彼らにはバンパイアが眠っている昼間、町をパトロールしたりガソリンスタンドを開けておいたりする仕事が与えられている。彼らはいつもぼうっとしていて、人間らしい感情もバンパイアらしい感情も(!)あまりないみたいです。ジョーの新しい子供もそうなる運命。

ジョーは町を通りかかったナチ・ハンターのバンミーア博士(サミュエル・フラー)と知り合う。ここで話の流れががらりと変わって、ジョー達とバンパイアとの対決になっていくんですが、実は私、何がきっかけなのかよく分かってません。よそ者に秘密を見せたことか?

ともかく、ジョーとバンミーア博士はジェレミーを連れて教会に逃げ込み、反撃の計画を立てる。日中、バンパイアが動けないうちに皆殺しにするはずだったのに・・・・・ね、寝過ごして・・・・・(あうあう)、全員を片づけきれないうちに夜になってしまいます。そして教会に残してきたジェレミーはまたバンパイアに連れ去られ・・・・・

このあとは血糊とSFXと炎がたっぷりのクライマックスです。学校の講堂での舞台劇っぽい場面や、吸血鬼の親玉とジョーの格闘シーンをお楽しみください・・・・・杭を使い果たしたので、斧、鎌、いろいろ使いますが効きません。そして窮地におちいった父を救うためにジェレミーが使った究極の武器は・・・伝統的なバンパイア対策(にんにく、銀、十字架)じゃなくて、そうくるかぁ。


ど、どうでしょう。書いてる方があんまり話を把握できてないので読んでもわからないかもですが(笑)


モリアーティの演技的には、いつものとおり着実なので、ハチャメチャな話もなんとか筋が通って見えます。ただし『Q』や『悪魔の赤ちゃん3』ほどの狂気はみられません。

その点では、吸血鬼と戦っているときより、冒頭の5分ほど、中南米のどこかで部族の調査をしているシーンの方が面白かったです。生贄の胸を切り裂いて心臓を取り出す儀式は『Q』の続きみたいだし、ジョーがそれを喜んでカメラに収めている様子は、彼自身に人間性という点で問題があることを示唆してます。お上品に牛の血をすするバンパイアと、どっちが人間らしいのか。つまり、人間らしさとは何か?というもこの映画の隠れたテーマであるわけです。ホラー映画には珍しいテーマですが。

ボートの上で調査助手を殴るところは、変な間合いがスティーブン・ジャービスを思わせます。船に乗ると人格変わるのか、この人は?それから調査に邪魔が入ったときの、相手を絞め殺したそうな表情にはちょっとストーンが入ってる。

ルックスはなかなかよろしい。前髪をおろしているのが可愛くて似合ってます。以前にヘアピース疑惑が出てましたが、どうかなぁ。しかとは判らなかったです(笑)

これで、ラリー・コーエン監督=マイケル・モリアーティ主演の作品4作観ました。自分の中ではやっぱり『Q』が断然トップです。次が『悪魔の赤ちゃん3』。『ザ・スタッフ』はデザートのCMが気に入ってる。本作『新・死霊伝説』は突出しているところがない分最後になっちゃうな。でも悪くないです、そんなには(笑)