Law & Order 3-9 Point of View  「揺らいだ中立性」


週末に再放送してた分です。話はわりと地味だけど、内容は盛り沢山な濃いエピソードだと思いました。いくつもの要素をみっちりと詰め込んであるので何度か見直さないといけなかったし、そのたびに新しい発見がありました。

ブリスコー刑事が登場し、彼のキャラクターのアウトラインが提供される。また、セレッタの退場とともにローガンが新しいパートナーを受け入れていく様子が最小限の場面で描かれる。1.反発、2.諦め、3.適応って箇条書きみたいな効率の良さです。それからストーンが心ならずもオリベットと対決する話。

でも一番の見どころは、レイニー・スティーグリッツ弁護士を演じたエレイン・ストリッチでしょう。コメディで有名な舞台女優だそうです。このエピソードでエミー賞のゲストアクトレス部門を受賞しただけあって、印象に残る演技でした。

ひとつ謎がありまして、シーズン3DVDボックスのジャケットには、このエピソードでストーンが「ロースクール以来の旧友と対決する」と書いてあるのですよ。ところがスティーグリッツはストーンと知り合いではあるみたいだけど、どう見てもずっと年配だし、ロースクールの話は聞き取れなかった。どなたか何かわかったらお教え下さい・・・ストーンの学友といえば、グリーンカード詐欺の話で出てくる移民局のボスがダートマス大学の同級生だったと思う。どのエピソードだったかな。


さて、オープニングの場面。冬のマンハッタン名物、下水溝から上がる水蒸気のむこうからまず「証拠品を元に戻せ!」という声が聞こえ、ブリスコーが姿を現わします。ジェリー・オーバック、スモークを焚いた舞台のような、ドラマチックな登場です。

ブリスコーは警官の制服についた砂糖なんて細部を見逃さない一方、周囲の反応によって、一筋縄でいかない人物らしいことがほのめかされます。しかも翌朝、ローガンに向かっていきなり「パートナーが撃たれるジンクス」を口にする。元妻たちが生命保険をあてにしてると。ただの無神経なのか、それとも言いにくいことをあえて冗談にする配慮なのか。この段階ではまだわかりません。

セレッタの引出を使うな、とブリスコーに絡むローガン。ブリスコー反撃する「イタリア人とヒスパニックの殺しは色恋沙汰、ミック(アイリッシュの蔑称)は金がらみだ」わはは、これをローガンだけじゃなくクレイゲンもいる前で言い放つとは!「いつまであいつと組むんですか!」と苛立つローガン。クレイゲンはちゃんと分かっててローガンを諭してます。

ローガン、捜査の合間にセレッタの見舞いに行き(イタリアのお菓子、ビスコッティ・アマレッティがお土産ね)、管理職に転向するニュースを聞かされる。オフィスに戻ってブリスコーに「生命保険料を払っとけ」という台詞は、彼と相棒でやっていく覚悟を固めたという意味か。ローガンのややぎこちない笑みと、にんまりしながら電話をかけるブリスコーの表情。

容疑者の面通しでレイニー・スティーグリッツ弁護士登場。舞台がらみのジョークが連発されます。「何これ、コーラスラインのオーディション?」依頼人以外はブスばっかり、とは言ってないけど、それに近いセリフあります。この次のブリスコーとの会話も、さすがにブロードウェイのスター同士。

ティーグリッツ 「帰るわよ。この公演は打ち切りになったの。後援者が足りなくてね」

ブリスコー     「ちょっと待て。鑑識から主演女優に絶賛レビューが出たんだ。薬莢の指紋が彼女のものと一致した」

ストーンのオフィスで対決。スティーグリッツ弁護士はレイプに対する正当防衛を主張。「保護観察処分にしなければ、スーザン・B・アンソニー以来の大騒ぎにしてみせる」 アンソニーは女性の参政権を求めて戦った19世紀の公民権運動家です。

いつものように懐疑的なシフ。「テルマ&ルイーズがオスカーを獲る世の中だ」フェミニストが強い世の中って言いたいんでしょうか。シフ=ストーンのコンビはどうも、この方面には保守的ですよね。そこへ、被告が嘘をついてるらしい証拠が上がってくる。

ストーンが思いついてオリベットに被告と面談させますが、彼女の見立ては正当防衛。証言には使えなそうです。ストーン「行けると思ったんだが、駄目だったか」駄目どころか、後にこれがバックファイアして面倒くさいことになります。

公判にて、フェミニズムに基づく主張を展開するスティーグリッツ弁護士。バーテンダーの証言の間も気を抜けません。「被告は男から逃れようとしていたのでは?」 「うちの店に来る女性は普通、その逆だ」 これを聞いたストーンの目が証人から弁護人へ動く。スティーグリッツの次の質問がわかったのですね。「つまり、一人でバーに来る女性は全員が男漁り目当てだと?」 ストーンは予測して身構えてました。「異議あり!」

オリベットの報告書が弁護側に漏れ、弁護側証人として呼ばれることがわかる。シフは「彼女のレイプ経験を指摘して個人的偏見が入ってると叩け」と指示。ストーンは彼女の感情を考慮し、同僚として先に話をしたい。でも証人操作を疑われるおそれあり、却下。

(ここのストーン、えらく抑えていてもろにピーター・ジェニングズな感じですねぇ。熱く抗議しすぎて撮り直しさせられたんでしょうか?)

法廷にて。ストーンはシフの指示通りに、彼女の判断に主観が入っていることを示す(結局、それが正しかったわけですが)。オリベットはプロフェッショナルな態度で耐えましたが、質問を終えたストーンは自己嫌悪で不機嫌そう。

15年後、カッターがマッコイに指示され、同じようにオリベットの過去を法廷で暴くエピソードがありましたが、あの時にはそんな罪悪感の描写はなかったような。レイプ事件ではオリベットは被害者だけど、あちらの話は自由意志での恋愛だったからかな?

黒幕から被告に金がわたっており、その以前に被害者が黒幕から金を盗んで妻に渡していたことがわかる。これを知ったら、正義感の強いスティーグリッツは弁護を降りるだろうか?

ストーンとスティーグリッツ、川沿いのレストランで会う。窓の外はマンハッタン橋?事件の転換点となる重要な場面です。ストーンが金の流れを説明する。

「でもフェミニズムにとって価値のある戦いなのよ」 「キャリアを賭けるほど?あなたのためを思って今ここで話してるのに」 レイニーが答えていわく "East of the rock, west of the hard place."  たまに聞く成句らしいですが、由来はわからず。「崖っぷちの決断ね」というところか。かすかに微笑むストーン。それに応えるようにイースト川を行く船の汽笛が聞こえます。「どうする、レイニー」

ティーグリッツが考えている間の沈黙がスリリングです。L&Oのエピソードはどれも密度が高く、45分間にその倍くらいの話がぎっちりつめこまれている。演出家にしてみれば、その中にたとえ数秒でも沈黙を入れるのは勇気がいると思います。それでもここであえて間をおくのは、この二人の息詰まる演技にそれだけの価値があるということでしょう。「あなたのオフィスで、一時間後に」

ストーンのオフィスにて3人。被告、「私は無罪になるわ」と強気ですが、スティーグリッツが「あんたには証言もさせない、最終弁論もしない」と脅します。今までみんながこの女にだまされていた分、小気味よかったです!弁護士と検事に一緒になって脅された被告、黒幕を売ることに同意。「奴にどんな借りが?」と訊かれ、ぎろりとストーンを見あげる・・・それまで被害者を演じていたのに、こちらも豹変ぶりが見事。カソリックなためにDV夫と離婚できない彼女が黒幕に頼み、事故に見せかけて夫を殺させたのだ。

黒幕の逮捕で事件は解決に向かう。ストーン、検事局に来ていたオリベットをみつけて謝罪しようとするが、非常に気まずそうな様子。キンケイドを首にしかかったときもそうでしたが、女性に対し素直に謝るのが苦手らしいですね?

"Sometimes you have an awful way of being right."  あなたの正しさには時々怖くなるわ。

"That's the curse of distrustful nature. And I'm very sorry for what happened in the court." 疑り深いのが私の欠点なんだ。法廷では申し訳なかった。

27分署での場面はもっと気持ちいいです。ローガン、ブリスコーの書類箱に蹴つまづいて「いい加減に引き出しにしまえよ」 照れたように無愛想なまま、お互いとセレッタへの心遣いで通じ合う二人。いいパートナーになりそうだなーと、ほんの数場面で納得させられました。