『悪魔の赤ちゃん3 禁断の島』

 
ラリー・コーエン監督のIt's Alive 三部作の三作目、1986年制作。DVDリリースは2004年。

マイケル・モリアーティの一人芝居がきわだってます。いや、画面上はモンスターと喋ってたりするんだけど、人間相手じゃないしね。そして監督の訴えたかったことは、たぶん、無償の愛。ホラー映画には珍しいテーマかもしれないけど。

また、conecoさんの感想にある通り、モリアーティのルックスが妙に若々しいのも要特筆です。40代半ばのはずなんですが、30歳くらいにしか見えなくて可愛らしいくらい。ベン・ストーンともそれほど離れていないのに、どういう年の取り方をしてるのか不思議であります。

以下、気に入った場面をいくつか抜き出してみます。全然まとまってなくてストーリーは最後まで追いませんが、いちおうネタバレにご注意。

オープニングタイトルの直後、法廷のシーン。最初から異様にぴりぴりしているスティーブン・ジャービス・・・なんですが、彼はモンスターベビーの父親の一人なんです。自分の子供が化け物で、それを殺すことが合法か否かという裁判に出席してる。落ち着かないのは当たり前です。よく考えれば、ひとの赤ん坊を殺すのに、のんびり裁判をやってる状況の方が異常なんです。この、悪夢のような状況で自分だけがまとも、という不条理から話が始まります。

ジャービスは自分の子供は死なせたくないが、モンスターだから怖いのは怖いんです。敵方(警察当局?)の作戦は、父親ですら恐れる子供なのだから殺してもいい、と証明すること。檻に入れられた赤ん坊が運ばれてきて、ジャービスはそれが自分の子供か確かめるように指示される。わが子への愛と恐怖心に引き裂かれながら檻に近づく。檻の前にかがみこみ、手をさしのべる。その場の全員が悲鳴をあげる。モンスターを落ち着かせるように話しかけるジャービス。ここ、相手役どころか目の前に空っぽの檻しかないところでの演技。モリアーティの本領発揮です。

警備員のせいで騒ぎが起こってモンスターが檻から逃げだし、あわや判事に襲いかかりそうになります。いきなりの極限状態でジャービス決死の台詞(彼自身、売れない俳優という設定です)。待ってくれ、撃たないで。この子はただの赤ん坊で、殺されるのを恐れているだけだ。仲間が殺されたことを覚えているんです。考えてみてください。生まれた途端に首に鎖を巻かれたら、銃と檻に囲まれたら、どんな気持ちがする?まわりの人間が全員自分を殺そうとしていたら?ほら、この子はただの怯えた赤ん坊なんです。どこかに彼らが平和に暮らせる場所があるはずです。どこか、人間のいないところに。

モンスターは静かになり、感動した判事は「赤ん坊は守ります」と宣言する。で、モンスターベビー全員は無人島に移されることに。

ここでうっかりリモコンの音声ボタンを押したら *1、突然コーエン監督のコメンタリーに切り替わって驚きました。

「モリアーティほどの役者はそういない。彼は時に他の役者をセットから出して・・・」と、また彼の一人芝居について語ってます。「誰もいないのに想像上の人間を相手に動き回って演技する・・・知らない人が見たら驚くだろう。相手役なしで演技するなんて役者はあまりいない・・・」

ベビーは助かりましたが、ジャービスにとっての悪夢は続きます。ニュースで顔を知られてしまい、彼自身がモンスターのように扱われ始める。なおかつ弁護士の策にはめられ、いつのまにか自伝の名目で暴露本が出版されることになっている。もちろん印税は弁護料がわりに彼女の収入となるのだ。このあたりからジャービスが変貌しはじめます。14年役者をやってきて初めてサインを求められ、「愛をこめて、スティーブン・ジャービスことモンスターの父親」と書く。パーティでモンスター・ジョークを連発して顰蹙をかう。耐え難い状況に、だんだん理性を失って糸の切れた凧のようになっていくんです。

憂いをおびたジャービスの顔が表紙になった暴露本がベストセラーになる。書店のポスターの前にたたずみ、わが子が生まれたときの場面をひとり再現する。笑ってるのに、何もかも失った孤独が胸に迫ります。

この後が靴屋のシーン。ジャービスはモンスターの父親として有名になったせいでコマーシャルの仕事がなくなり、仕方なくショッピングモールで働いているという設定。あいかわらず変なハイテンションです。

ここから話はとつぜん海洋アドベンチャーに(笑)。ジャービスを含めた調査隊の一行が船で無人島へ出向くことになります。これがとても美しい帆船なんですがひどく揺れます。ジャービスは狂躁状態がピークに達して、女性科学者をしつこく悩ませる。夜が明けると甲板の救命ボートに腰かけ、ミュージカル俳優のように船乗りの歌を歌います。揺れまくる船の上、青い海と空をバックに、潮風に吹かれた髪をぼうぼうに逆立たせ、陽灼けに上気した顔でとめどなく歌い続けるんです。女性科学者はあきれてどっか行ってしまいますが、ほかのメンバーは楽しんでます。(このシーンがいちばん好きです。なぜかジョニー・デップを連想しました)

島でいろいろありまして、帰りの航海は、人間はジャービス一人。モンスターと死体を相手に船の上でずっと一人芝居です。往路では人格が崩壊しかかっているように見えましたが、一人だとずっと落ち着くようです。そしてある日、モンスターの一人(見分けつかないけど、たぶん彼の息子)によって、筏とともに海に投げ出される。筏というよりただのプラスチック板ですね。あっというまに海流に流されて船から遠ざかる *2 。旋回するヘリからのショット。サメの泳ぐ大海原で、たった一人。生き残れるかどうかもわからない。絶対的な孤独。

さて、ジャービスは生き残れるんでしょうか。彼がこの後に残す言葉。

He's your own son. You can't run away from your own son.
自分の息子なんだぞ。自分の子供から逃げるなんてできっこない。




・・・・・コーエン監督のコメンタリーはいつも面白いんですが、今回はストーリー半ば、靴屋のあたりでの話に発見がありました。

「モンスターの父親の反応には二種類ある。鬱状態に落ちこむか、ジャービスのような躁状態になるか。彼らはみなひどいプレッシャーにさらされるが、反応の仕方はそれぞれだ」

躁的、狂躁的というのはモリアーティを理解するキーワードのひとつだと思ってます。英語だとmanic。この言葉はStern Angels にも自分を形容する言葉として出てきてます。詳しくはまた別の記事で。



*1 コーエン監督は音声に凝って作ったらしく、音楽、モンスターの唸り声、カレン・ブラックの叫び声などがすごく効果的。なんだけど、その分私の耳には負担が大きくて、どうしても耐えられない。だから基本的に音声を切っておいて、モリアーティの登場場面だけオンにするという邪道なことをやってました。

*2 監督のコメントによると、実際に海流が早くて、バックアップボートから撮影するつもりだったけどすぐに見失ったと。Qのときもそうだけど、一歩間違えば大惨事です。

無人島の設定はカリブ海のどこかですが、ロケ地はハワイのカウアイ島だそうです。島での撮影もハプニング続きだったらしい。渓流沿いで撮影してると鉄砲水が出たり、イノシシが出たり、スーツアクターがおぼれかけたり。というか、監督自身がこういう「危なかった」話が大好きみたい。