Law & Order 3-5 Wedded Bliss 「ドレスに潜む闇」

 
Sweatshop = 社会的弱者を安い賃金と劣悪な条件で働かせる縫製工場の話。「善良そうな夫婦が裏部屋にダッハウを隠しているなんて誰も信じたがらない」とストーンが、「奴隷制?今は20世紀だと思っていたが」とシフが言ってましたが、21世紀になっても同じことは行われております。ただ違うのは場所ですね。いまどきはマンハッタンにこんな縫製工場があるなんてことは多分なくて、現場が中国からベトナム、さらにバングラデシュへ移っていたりするんだと思います。

だけどこの話を取り上げたのはそんな社会問題を語ろうというわけではなく、18-8「法に背くとき」でお気に入りだったレイサム検事補役の役者がゲストで出ているからなんです。あの話で「これがストーンだったら」と想像して笑ってた人とストーンの直接対決が見られるわけ。

この俳優さんの名前はジョン・パンコウ。18-8でマッコイに逆らう敵役の検事補とおなじく、3-5でもシニカルで憎々しい弁護士です。役名はチャールズ・メドウ。15年前ですから髪はもっと黒々してますが額の張り出し具合は隠せません。後半早々、ストーンのオフィスに現れてオデコ対決(!)です。

Beautiful, Charlie, he makes slaves of them and he kills them? Did you have to take this case?
驚いたな、チャーリー。子どもを奴隷にして殺した男?なんだってこんな奴の弁護を引き受ける?

とストーンが先制攻撃をかけると、それを上回る嫌味で応酬します。

Where's the congregation, Reverend Stone. That sermon can't be for me.
どこの教会で喋ってるんだ、ストーン牧師。そんな説教は私には通用しない。

うーーん、台詞だけじゃなくシニカルな笑いが素晴らしい。ロビネットのことも一瞬で怒らせております。

話の途中で、判事の前で秘匿特権の議論になる(ウェディングドレスの話で、配偶者秘匿特権が問題になる皮肉・・・)。ストーンが被告の妻を証言させたいというと、

Judge, what country is he practicing in? No court in New York, trial or appellate, encroaches on the sanctity of marriage. You can't compel her to testify.
判事、彼はいったいどこの国の検事でしょうかね?一審だろうが上訴審だろうが、ニューヨークの裁判所が結婚の神聖を侵すなんてありえない。彼女に証言を強要するなんて問題外です。

こういう嫌味の応酬も米国ドラマの醍醐味のひとつであります。さらにストーンが「特権には例外がある。彼女はその場に偶然居合わせたと言っている」と主張すると、

Deeply surprised. I'm sure you didn't put words in her mouth.
それは驚きだな。どう話せばいいか教えたわけじゃないと信じてるよ。

証人操作をほのめかされたストーンの「信じられん」っていう様子がよかったです。隣に座っている相手の方を向いて怒っている。この顔が美しいんですよね。まあ、私は彼が横顔を見せてくれれば何でもいいのかもしれないですが・・・。さすがに判事も叱責の必要を感じたようです。

You want to insult his intelligence, fine. You will not accuse him in my chambers of suborning perjury.
彼の知能をこきおろしたいのなら好きにしていい。だが私の執務室で、偽証教唆の言いがかりをつけることは許さん。

そう言われても、メドウ弁護士はあんまりこたえた様子もなくニヤニヤしています。この憎たらしい感じが、最後にストーンから取引を迫られる場面を爽快感あるものにしています。これがこの人の持ち味なのかも。

そしてオデコは、よく見れば見るほど同じ形(笑)
 

『ホロコースト』 ディスク4 ハイドリヒ暗殺

 
ホロコースト』やっとディスク4に入りました。ベルリンの親衛隊本部に、アウシュビッツの司令官ルドルフ・ヘースが呼ばれて来ていて、ヒムラーから収容所を拡張する任務を与えられる。この場面の会話については時代背景3/3の記事で既出です。もう一年前(!)

この幕も史実を少しアレンジしてあります。実物のヘースによる証言や回顧録では、ヒムラーから召喚され、アイヒマンと協力してアウシュビッツ拡張計画を作るよう命令されたとなっているのに対し、ドラマではエリック・ドルフがその場にいて連絡役を仰せつかっています。またヘースはこれを1941年夏の出来事としていますが、1942年の記憶違いという説もあります。ドラマではこの場面は1942年、それまで強制収容所だったアウシュビッツを拡張して絶滅収容所とすることにした、という設定をとっているようです。アイヒマンと同じく、ヘースもドルフの同僚かつライバルとなっていきます。

指示を終えたヒムラーがハイドリヒとともに部屋を出て行きます。ドルフを中傷した例の手紙がまだ影を落としていて、ハイドリヒは言い訳を強いられます。父親が社会主義者で母親の再婚相手が半ユダヤ人というだけで問題はなさそうなのに、しつこくこだわるヒムラーにハイドリヒはたまりかねて反撃します。

[ハイドリヒ]  彼の更迭がお望みですか?それとも、標的は私ですか?

ヒムラー]   何を言うんだ、友よ。

[ハイドリヒ]  またもや私を攻撃し、今度はドルフ。次はいったい誰を?

ヒムラー]   余計なことを考えるな。今はアウシュビッツが最優先だ。

[ハイドリヒ]  分かりました、ライヒスフューラー。

「またもや私を〜」というからには、以前にヒムラーから同じようなやり方で攻撃された、つまりハイドリヒのユダヤ系説はヒムラーが流した、という意味なのか。これまで常に自信にあふれていたハイドリヒがはじめて弱味を見せる場面ですが、実はこれが最後の登場となります。


初夏のある夜半、ドルフ家。エリックは眠れないでいるようです。このところ毎晩そうやって過ごしているようですが、この夜は特に虫が知らせたのかもしれません。気がついて目を覚ましたマルタと会話するうち、「この戦争は負けだよ」と言い出します。しかし、彼が本当に恐れているのは敗戦そのものではなく、自分たちのやったことについて「いつか恐ろしい噂が広まるだろう」ということです。

[ドルフ]    噂を聞いても、君だけは信じないで、子供たちに教えてくれ。僕は国家に尽くしたのだ、名誉ある人間として、命令に従っただけなのだと。

彼の仕事の実態を知らないマルタが「あなたは立派な人よ」となだめても、エリックはだんだんと自分の考えに沈んでいく。でもその言葉はどれも途中で途切れてしまいます。

[ドルフ]    僕には理解できないんだよ。ハンス・フランクの自慢は・・・・・何百万という・・・・・ 

ハンス・フランクが吹聴する数百万とは、おそらくユダヤ人犠牲者の数。エリックはマルタに自分の気持ちを分かってもらいたいと思いながら、肝心なこと、自分たちの仕事についての真実はどうしても口に出せないのです。*1

[ドルフ]    それにヒムラーは工場の話を、まるで・・・・・

工場とは言っていますが、もちろん絶滅収容所のこと。その効率をヒムラーがまるで工場の処理能力のように誇っていると言いたいのでしょう。しかし愛するマルタの前だからこそ本当のことが言えない、その辛さが伝わってきます。でもはずみがついたエリックは話しやめることもできない。

[ドルフ]    アウシュビッツの司令官のヘースという男は「信じ、従い、行動せよ」といつも言う。ああ、ぼくも彼みたいになれたらいいのに・・・・・なのに彼は親切な人間で、子供思いで、動物を可愛がり、自然を愛し・・・・・

高官たちや親衛隊の同僚将校が大量虐殺の仕事を嬉々としてこなしているように見えるのに、自分はもうついていけそうにない。それまで危ういバランスを保っていたエリックが心の裡を明かすのにもっとも近いところまでいく場面です。が、彼の恐ろしい記憶はそれ以上言葉にならず、この歪んだ泣き顔に表われるだけ。

内面の苦しみが出口を求めてもがいているのが見てとれます。ここの演技だけでも、マイケル・モリアーティがエミーとゴールデングローブをダブル受賞したことに納得はできると思います。

マルタが彼を慰めようとしているうち、電話が鳴ります。真夜中の不吉な知らせ。プラハでハイドリヒの車が爆破され、重傷を負った長官は助かる見込みがないのだという。

エリックの本当の悩みを知らないマルタは、「チャンスだわ。亡くなったら後を継ぐのよ」と彼を鼓舞します。エリックの表情の意味は・・・・・暗殺の衝撃によって現実に引き戻され、マルタの言葉にやや怖れをなしつつ、仕事を続けるしかない、と思っているかのようです。


[追記]読了 『HHhH プラハ、1942年』ローラン・ビネ著、高橋啓訳、東京創元社  ハイドリヒ暗殺を、二人の暗殺者の視点から描いた小説。フィクションとはいえ非常に詳しい取材のもとに書かれており、その取材から創作の過程も織り込まれているという実験的な手法で高い評価を受け、日本では2014年の本屋大賞翻訳部門の1位になった。面白い!
 
 

*1:日本版DVDの字幕で唯一不満があるのが、ここが「ハンス・フランクは巨万の富を自慢し」となっていることです。たしかにフランクは私財を蓄えていたようですが、そう限定して解釈してしまってはエリックの葛藤が伝わらず、この場面の価値が半減する。「語られなかった台詞」の訳は難しいところで、やはり「口にしがたいナチの所業」をテーマとしたL&O 3-13「夜と霧」にも2か所あります。

Law & Order 18-8 Illegal  「法に背くとき」

 
シーズン18の初めから、政治家になったことにとまどいを見せていたマッコイですが、ここにきてやっと検事長としてのキャラクターを確立し、有権者(ほんとうは視聴者)のお墨付きを得ようという回だと思います。その意味でマッコイ集大成+トリビアクイズのエピソードとしても楽しめるはず。しかーし!その意図は分かるんだけど、いまだに全話見たという自信がない私は悔しいことにクイズの解答がわかりません。一部は種明かしあり、一部はお手上げのままリストしてみます。印象的な会話もたくさんあるので、そちらも。


マッコイ、レストランで食事中を刑事部長たちに邪魔される。反撃のセリフは

I say my thirty dollar stake is going cold.
字幕に「30ドルのステーキ」って入れてほしかったです。


薬莢の照合を頼みに行った鑑識課で、カッターがルーポに対し心を開く場面。この二人、今まであんまり接点がなかったせいかちょっとぎこちないのが初々しくていい感じ。夜間ロースクールに通っていると明かしたルーポにカッターが冗談を言いますが、何と言ってるんでしょうか。

Night law school. Like root canal with a dull drill.
歯の根管治療を切れの悪いドリルで・・・それは痛そうです。


クビになった検事補が弁護側で証言することになり、それを止めるかどうか話し合った後でマッコイが嘆く。

Now I know why Adam Schiff was so grumpy.
字幕は「前検事長の気持ちが解る」となってたけど、ブランチじゃなくアダム・シフなんですね。つまりシフは辞めた検事補に悩まされていたということなのか?それは誰なのか?とちょっと気になります。


で、そのレイサム検事補の証言。マッコイ氏は検事補時代から職権を濫用してリベラル派の主張を通してきた、と非難します。

As assistant district attorney he often used his prosecutorial power to engage in social activism on behalf of liberal agenda. He was often reprimanded for it by previous district attorneys.
最後のところの字幕は「当時の検事長から叱責」となっていましたが、DAが複数形で「シフにもブランチにも」という意味だから、「歴代の検事長から」としてほしいところです。


レイサムの証言の後で、マッコイが「政治を避けて通れるなんて考えた私が馬鹿だった」というとカッターがこう返します。字幕では「もう後には引けない」となっていたセリフです。

You're in the soup now, my friend.
「あなたはもうスープの中に浸かっている=もう逃れられない」ってことですね。この台詞、激しく聞き覚えがありました。以前のエピソードでマッコイがカッターに言った言葉を返していると思います。でもどの回かは分からない。ひとつ前かもしれないし、もっと前かも。


さてクライマックス、証言台に上がるマッコイです。被告弁護人が過去の裁判をあげつらう(ふりをして視聴者のマッコイ知識に挑戦します)。

You prosecuted cops, big tobacco, big pharma, pro-life groups, anti-gay activists, gun manufacturers, the whole liberal hit-list. Isn't that right?
あなたが起訴した相手は、警官、タバコ会社、製薬会社、中絶反対派、ゲイ反対派、銃メーカー。リベラル派の敵ばかりですね?

さて、どれがどのエピソードでしょうか?!答えられる人はそうとうのマッコイ通ということになりますね。(私は無理だ〜)

弁護人の追及は続きます。銃メーカーの裁判では、判事が陪審の判決を無効にしてあなたを制止しなければならなかったでしょう? マッコイの反論は:

I was also reined in for prosecuting sexual predator, I was reined in for prosecuting a bunch of Russian gangsters, who killed a prosecutor and almost blew up a police station.
不当に抑圧されたケースはほかにもある。強姦魔の事件や、ロシアン・マフィアが検察官を殺し警察署を爆破しようとした事件だ。

この二つはどのエピソード?後者はなんとなく覚えがあります。女性の連邦検事補が殺されてアビー・カーマイケルが泣いてた話かな?

マッコイ証言の最後は決め台詞 This is my bottom line. ルビローサのにっこり顔、それに有罪判決でしめくくり。あ〜今まで Law & Order を見ててよかった〜と思う瞬間です。


RFKの選挙運動タイピンが出てくるタグもよかったですね。そういえば右派転向前のベン・ストーンのヒーローもボビーでした。


しかしこのエピソードで私が一番気に入ってたのはレイサム検事補です。もう完璧な悪玉ぶり。これが実はベン・ストーンだったら・・・とか想像してひとりで笑ってました。いったんは辞めたストーンですが復帰して、超保守派検事としてマッコイに取って代わるチャンスを長年うかがっていたんですよ。そして14年の雌伏ののちついにカメラの前に復帰するも、マッコイにあっさりクビにされてしまうという可哀想なストーリーで。そう思って見るとオデコの張りだし具合といい髪の状態といい近年のマイケル・モリアーティに似ている気がしてくるのです・・・・・
 
 

Law & Order 15-6 Cut 「美の追求の果て」

 
美容整形をめぐる話。いちおう社会問題ですが残酷な殺人が起こるわけでもない地味なプロットで、たぶん誰も覚えていないエピソードじゃないかと思います(しかも、放送とタイミングずれてるし)。しかしこの次の15-7「知事の恋人」と同じく、やっぱりゲストの演技がイイんですよね。

ただの医療過誤を殺人に仕立てられてしまう形成外科医を演じているのはブルース・アルトマンという俳優。何度もゲスト出演している常連のひとりです。ハンサムだし押し出しもあるんだけど、シリアスに演技していてもどこか抜けたコミカルな感じを持っている人で好きなんです。

最初に出てきたのは1-15「欲望の奔流 前篇」で、マフィアのドンの義弟役。ストーンに乗せられてドンを裏切り、後篇で殺されてしまう。次が4-10「幸せを求めて」(ロシア花嫁の話)の弁護士。「アジア人の目撃者はヒスパニックの顔を識別できない」というトンデモ学説を持ち出して、ストーンに「あんたが明日中国人に殺されたらこんなに嬉しいことはない」と暴言を吐かれる(笑)

この回の医者役は、憎たらしいし記録の改竄もかなり怪しいけれど、単純な悪者ではない。セリーナ・サザリンに豊胸を奨めたり、仕事熱心なのは違いないし。自分の身に降りかかった災難が自分で招いたことなのを理解できず、検事局まで押しかけてきて弁護士の愚痴を言ったりする。熱血漢だけどおそろしくポイントがずれてるだけ、という憎みきれない悪役に仕上がってます。

この人物とマッコイが検事局の廊下でやりあうシーンが見どころでした。弁護士抜きで話すのはまずいといいつつ、なぜ相手をしているのかマッコイ・・・・・と思ってると、一緒になって怒鳴り始めます。おやどうしてここでマッコイが自制を失うのだ、ストーンじゃあるまいし。

これってマッコイの側もかなり理不尽な起訴をしているのでその後ろめたさがあるのかも、と思いました。この「ポイントのずれた熱血漢」の中に自分の姿を見たのか。

そもそも美容整形を妊娠中絶と同列に論じるなんて、かなり馬鹿馬鹿しい話。この頃になるとLaw & Order のフォーマットは完全に確立されているので、弱い話もそれなりの社会派ドラマにできてしまうところが問題だと、作ってる方も気づいていたのかも。L&Oの水戸黄門化。それを救ったのが、脚本の軽さを逆手にとったようなアルトマンの微妙に笑える演技だと思いました。
 

DER SPIEGEL 1979年1月29日号

 
出版物ネタですが、こんどは読めもしないドイツ語です。デア・シュピーゲルといえば、米国のタイムやライフにも匹敵するメジャーな雑誌。これの1979年第5号(1月29日付)の表紙はごらんの通り、親衛隊の制服を着たマイケル・モリアーティの大写しです。

http://www.spiegel.de/spiegel/print/index-1979-5.html

キャプションには“ユダヤ人殺害に揺れるドイツ”とあります。前年にアメリカで大反響を呼んだドラマ『ホロコースト』が1月にドイツでも放映され、国内でさまざまな反応があったことを描いた特集なのです。

このドラマの主役はフリッツ・ウィーバー演じるユダヤ人のワイス医師のはずですが、後ろに小さく映っているだけ。この差が興味深いです。ドイツ人にとっての主な関心はやはりエリック・ドルフに代表される自国政府であったことがうかがえます。戦後34年、今の半分しか経っていない時代に、この表紙は今見るよりずっとインパクトがあったのではないかと思います。


私はドイツ語読めないので、シュピーゲルのこの号のことも実は知りませんでした。先週あたりのこと、モリアーティ氏の投稿に画像が貼ってあったことが発端です。投稿内容は例によってウクライナでのユダヤ人攻撃からオバマプーチン第三帝国がなんたらでしたが、画像はシュピーゲルの表紙だとわかったので公式サイトへ探しに行って見つけたものです。

ライフと同じくバックナンバーを手に入れようかとも思ったのですが、読めなきゃ持っててもしょうがないし(笑) そのかわり記事が全文オンライン化されてるので自動翻訳で英語にして読んでみました。

それによるとやはり放送時にはドイツ(西ドイツ)全体が大騒ぎだったようです。国を二分する政治問題となり、放送を決めたWDR(西ドイツ放送局)は賛否両論にさらされ、テロリストによる爆破予告を受け、実際に被害にあった局もあった。

放送当日にはたとえば労働組合の会合のような行事はキャンセルされ(どうせ誰もいなくなるから)、一人で観る勇気のない独身者たちのために、グループで視聴する場が大学のキャンパスなどに設けられた。放送後、視聴者からかかった電話の数は3万件、米国NBCによる初放送時の4倍という数字もあります。

このような社会的反響は以前に「視聴率と反響」の項で調べたのとそれほど変わりませんが、ほかにこの重い物語がキャストに与えた影響を描写した部分があって興味を引きました。

悪の主役エリック・ドルフを演じたマイケル・モリアーティは、家族の場面で「聖しこの夜」を歌わなければならなかったとき、非常に辛い思いをしたという。「どうやったらそんなことができるんだ!」と。

イギリス人俳優シリル・シャップス(カール・ワイスと収容所で知り合うワインバーグ役)は、「これ以上続けられない」とマウトハウゼン収容所の撮影現場を去った。*1

ワイス医師役のフリッツ・ウィーバーカトリックとして育ったが、この映画の後は「自分が生まれ変わって、ユダヤ人になったかのように感じる」という。

モリアーティの談話は、「1941年のクリスマス」の場面を指していると思います。ブログで紹介したIMDbのレビューには、彼が「泣いてしまった」となっていました。シュピーゲルの原文は klappte zusammen で、直訳するとどうも意味が通らないのですが、zusammenklappen という動詞に「ぐったりする、衰弱する、卒倒する」という訳があるので上のように解釈しています(ドイツ語が分かる方がいらしたらご教示ください・・・)。

あの場面でのモリアーティのカメラ目線は、やはり「どうやったらそんなことが」という問いかけだったのかと思いました。


と、ここまで先週下書きを書いておりましたら、偶然でしょうが今週になって関連記事が2つ出てきました。ひとつは5月7日付ニューヨーク・タイムズ。ドイツでここ3年、絶滅収容所のもと看守にたいする訴追が相次いでいるが、本人たちはもう80代を超え、時間との戦いになっている、という内容。

(L&O にも似た話、14-18 Evil Breeds「悪の種族」がありました。アウシュビッツの衛星収容所の看守だった男が、ネオナチと協力して証言者の女性を殺害したというもの。ただし私にとっては、あの回はブランチもマッコイも何も考えてないように見える(3-13「夜と霧」で悩むストーンと違って)。そのせいでドラマとしての詰めが甘いと感じられ、苛立たしいエピソードに分類されてます。そのわりには気になって何度も見返すのですが。アダム・シフならばあんな裁判は許さなかったはず・・・・・)

もうひとつがSalonというオンライン雑誌の5月10日付記事で「メリル・ストリープがナチハンターに貢献した理由」というタイトルです*2。NYTの記事に触発され(あるいはモリアーティの記事だったりして)、上記のシュピーゲルをかなりの部分引用してドラマ『ホロコースト』がおよぼした社会的反響について書いています。いやむしろ、シュピーゲルの英訳として読むことができる・・・先週末を自動翻訳の解釈についやした苦労はなんだったのか(笑)
 
 

*1:ポーランドで撮影許可が下りなかったため、アウシュビッツの場面はオーストリアのマウトハウゼンで撮影されたのです

*2:http://www.salon.com/2014/05/09/how_meryl_streep_helped_the_nazi_hunters/

『空の大怪獣Q』 放送予定

 
とりあえず緊急情報!

『空の大怪獣Q』がイマジカBSで放映されます。公式ページによると放送予定は次の通り

05月03日(土) 17:00〜18:45
05月05日(月) 深夜01:00〜深夜02:45
05月22日(木) 19:15〜21:00
05月31日(土) 深夜04:45〜06:30

アドレスはこちら
http://www.imagica-bs.com/program/episode.php?prg_cd=CIID135443&episode_cd=0001&epg_ver_cd=06&epi_one_flg=index.php

作品についてはこのブログではやたらと書いてるので、検索ボックスを使うといっぱい出てくると思いますが、"Q: The Winged Serpent" 『空の大怪獣Q』1/2 の記事がいちばん詳しいはず。ネタバレですが前置きが長いので適当なところで切り上げてくだされば大丈夫かと(笑)

マイケル・モリアーティ出演作品の中で、いちばん有名なもの・・・というと Law & Order でしょうし、いちばんメジャーというと『ペイルライダー』か『戦火の勇気』だろうし、視聴率が高かったのは『ホロコースト』。でももっともマニアックな、ハードコアファン向けは間違いなくこの作品ですね。

ピアノを弾くベン・ストーンを見たい方はぜひどうぞ・・・と言いたいところですが、ストーンを期待してみるとかなりイメージが違うと思います(それと、グロ注意です)。私は今まで字幕つきで観ていないのでかなり楽しみにしております!

 
 

『ホロコースト』 ディスク3 ヘウムノ

 
前の幕では、銃殺隊の非効率さに気づいたヒムラーから、もっとましな方法を探すよう命令が下りました。ユダヤ人問題の最終解決のため、効率的で人手のかからない、いわば産業的な手法を開発しようというのです。エリック・ドルフはその命令に従ってポーランドに来ています。

窓のないバスのような車両が田舎道をゆっくり進んでいき、軍用車両と兵士を乗せたトラックがそれに続いています。エンジン音にまぎれて悲鳴のようなものも聞こえます。この「バス」はガストラック。客室がガス室になっており、走っているあいだに排気ガス一酸化炭素で中の乗客を処理するしくみになっている。ホロコーストというとツィクロンBを使ったガス室がもっとも有名ですが、そういう施設をそなえた絶滅収容所がフル稼働するようになる前には、このように複数の方法が試されていたらしい。(一酸化炭素を使ったガス室は、第2部のハダマール療養所のエピソードで出てきました。「時代背景1/3」を参照)

軍用車両の後部座席では、ドルフがネーベと会話しています。この方法はまだ成功といえない。70人を載せて収容所から30分、エンジンを酷使するし、時間も手間もかかる。恒久施設が必要だ。などと言っている。(この台詞はラインハルト作戦の始まりを示唆しています。ガストラックを使ったヘウムノ収容所ののちにガス室を備えた絶滅収容所が複数建設されたのです。)

そう、ブローベルともその話をしてるんだ。 とネーベが答えたところで、ドルフがそれまでにない邪悪な顔をみせます。なるほど、他にはどんな話を?匿名の手紙を書く相談か?ハイドリヒやヒムラー宛に、部下を中傷する手紙を? 

目も頬も笑っていないのに、歯の間から悪意がこぼれ出るような笑み。ポーランド総督府の場面でハンス・フランク相手に見せた敵意を倍にした顔です。声はわざと静かに抑えています。ネーベが言葉に詰まっていると銃声が響き、兵士のひとりがやってきて生き残りを射殺したことを報告。その間もドルフは青い炎のように目を光らせてネーベを睨んでいます。

[ドルフ]    気にいらんな。

[ネーベ]    そうなんだ。母親が子供をかばうから、生き残りが出る。

[ドルフ]    そのことではない。一酸化炭素は効率が悪い。ドイツの誇る化学の助けを借りれば、もっとうまくやれる。


ウクライナでの殺人いらい、ドルフの人物には不気味な緊張感が見え隠れしていましたが、それでもミンスクの場面まではあの経験を踏み台に迫力を増したようなところがありました。しかし例の手紙のせいでハイドリヒの寵愛を失い、立場が危うくなってから(と自分で思っているだけで、もともと確固とした地位などなかったのだけれど)、バランスが崩れてこの場面のような怒りや、どうしようもない不安が顔を出すようになっていきます。この先終幕まで、彼の心理状態は坂を下っていくばかりなのです。

また、このドラマではドイツの対外戦争は直接描かれていないのだけれど、ドルフが消耗していく様子は戦況とシンクロしており、帝国の崩壊への道のりを暗示しているようにも思えます。


(無駄話) 少し前にドイツへ出張に行ってきました。フランクフルト郊外にある工場へ行く途中、車窓から「ハダマール 2km」という道路標識が見えて不意をつかれました。その地名になぜ覚えがあるのかわからなくて、一瞬そこが自分の目的地なのかと錯覚したくらいです。しばらく考えてホロコースト関係だと思い当たり、検索してみるとたしかに精神病者安楽死が行われていたハダマール病院のあった場所。新緑の美しい田舎だけに、そんな歴史が隠れていようとは驚きでした。