『ホロコースト』 ディスク2 1939年の舞踏会

 
ディスク2は1939年、ポーランド侵攻後の話になります。ハイドリヒ長官の執務室で、ドルフがスライドフィルムを上映して見せている。おそらくポーランド各地での、ユダヤ人の絞首や銃殺の様子。現地での散発的な処刑で、計画された大量殺戮ではないようです。二人が気にいらないのはその無秩序さです。

ハイドリヒがドルフに謎をかけるような質問をします。我々の目標とは何だ?ユダヤ人の排斥だとして、具体的には?財産没収か、追放か、移送か?不妊処置?絶滅?・・・・・総統の本を読んだなら分かるだろう。

ハイドリヒはもちろん最後に言った選択肢を頭においているのですが、はっきりとは口にしません。ドルフは数百万人を抹殺・・・・・どうみても問題外です。と答えて自信なさげに微笑む。

ハイドリヒは「そうだな」と言ってまだドルフの顔をうかがっています。この、政治に無関心なドイツ中産階級の典型的市民が、自分がひそかに考えている政策についてこられるかどうか試しているようです。ドルフが問題外と思うなら、国民の大多数にもまだ抵抗があるということです。

ドルフは穏当な答えをひねりだします。封じ込めはどうですか?隔離です。

ハイドリヒはまた謎かけをする。ユダヤ人は何の役に立つ?

・・・・・答は現実的な側面だよ。反ユダヤ主義で国民を団結させるのだ。ユダヤ人が井戸に毒を入れたとか、悪魔の手先だとか、子供を攫うとか、そういう中世のたわ言をヒムラーなら信じるかもしれんが、我々は迷信だと知っている。だが、迷信も政治的には役に立つのだよ。

ドルフは、今度は即座に要点をつかみます。つまり、イデオロギーや伝統を、現代的な政策と融合させるわけですね。

話が噛み合ったところで、さっきドルフが使った「隔離」という言葉をベースに議論がすすみます。ユダヤ人を東部へ移動させるため、大規模ゲットーを作り、ユダヤ人自身に運営させろ。というハイドリヒに対し、「ゲットー」という用語は誤解を招くかもしれないと、ドルフは「ユダヤ自治区」を提案します。

ハイドリヒはこれらの「自治区」はユダヤ人問題の解決への第一歩だ、と言ってから、おっと、君の物言いに似てきてしまった、と顔をしかめます。心にもないことを表現するのは君の得意技だからな。

ディスク1でも出てきましたが、ドルフはずっとこのような婉曲語法を得意としました。実際にナチの官僚機構では言葉遣いに細かい規定があって、国際社会から非難されかねない用語がうっかり文書に残らないように、細心の注意が払われていたのです。


次はベルリンでの舞踏会の場面です。親衛隊将校たちが夫人を連れてきている。妻のマルタがハイドリヒ長官と踊っているのを誇らしげに見ているエリック・ドルフに、叔父のクルト・ドルフが話しかけてくる。クルト叔父は民間人の土木技師だが、陸軍から占領地区での道路建設を請け負っているので招待されたのです。この人物はのちにSSの仕業に疑問を持ちユダヤ人をかばうようになります(オスカー・シンドラーを思わせる設定です)。しかし今のところは総統がドイツにもたらした繁栄についてマルタと同意見で、シャンペンで乾杯する。
 
フロアではダンスが続いている。この場面の華やかさはポーランドの戦場など他の場面と残酷な対照をなしています。