Law & Order 3-13 Night and Fog  「ホロコーストの生き残り」 2/2


民事裁判所にて、スタインメッツまたはスクルマンの身柄引き渡しをめぐって、連邦対ニューヨーク州。ここでも greater evil(より大きな悪)という語が出てきます。一人の殺人と、数百、数千の人々の死を比べると、後者の方が大きい悪だと言えるのでしょうか。司法はそれに基づいて決定を下すべきなのか。たぶん違う。判事の裁定は、地方検事が起訴を済ませているという手続きの点を根拠として、州の主張を支持します。

裁判が始まる。スタインメッツ家が雇ったローウェンサール弁護士もとうぜんユダヤ系だと思いますが、年齢からみて戦後、アメリカの生まれなんでしょうね。ヨーロッパからの一世とは微妙に感覚が違うかもしれない。前半で彼の名前が出たとたんシフが「取引しろ」と言ったくらいだからやり手で有名なのでしょう。冒頭陳述とそれに続く法廷戦では彼の方が説得力があります。出てくる証人も全員ユダヤ系で(ついでにレベッカ・スタイン判事も)、ローウェンサールの方がいわば専門家、ストーンとロビネットは部外者みたいに見える。

検察は、動機を立証することで夫が殺したことを明らかにしたい。ローウェンサールは、理解しがたい悲劇が起こった時、誰かを責めることで説明をつけようとするのは人間の性だという。1920年代のドイツがあれほどの経済的混乱に陥ったのはなぜか。ユダヤ人のせいだ!(これはナチスが実際に使った論理。)600万ものユダヤ人が殺されたって?理解できない。きっと身から出た錆なんだろう。スタインメッツ夫人が自殺したなんて信じられない。夫の仕業に違いない!

ホロコースト研究センター員の証言。ポーランドの戦犯裁判で、スクルマンは人道に対する犯罪を犯したとされた。しかしローウェンサールは反対尋問で、スクルマンとスタインメッツが同一人物だった証拠はないし、スクルマンのような人間は戦犯以前に被害者だったという言葉を引き出す。

リーブマン夫人の証言。ゲットー時代のスクルマンの苛烈さ、被害者がスクルマンのことを知りショックを受けていたこと。この強力な検察側証人に対し、ローウェンサール弁護士「スクルマンのやっていたことは、少数を犠牲にして多数を救うことでは?」と大胆な質問をするが、証言台の夫人に睨まれ、目をそらす。だが彼女も同一人物であるとは断言できない。

裁判は一進一退。だがカウンセリングを行っていたラビから、決定的な証言が出る。妻は夫の正体に確信を持っており、罪悪感と恥にさいなまれ、家族がどうなるかと怖れていたという。それを聞いた娘が弁護側の証人として証言台に。母は死ぬつもりを明かしたと偽証する。父をかばうためなのか、息子を守るためなのか、ともかく辛い事実を否定しようとする。

娘の偽証を正そうとしない被告に対して、ストーンが激しい言葉を投げる。50年前、あなたは他人を犠牲にして自分を守った。奥さんが死んだ今、娘を犠牲にしてまた自分が助かろうと言うのか。 うーーん、これちょっと厳しすぎやしませんか。後半は言う権利あると思うけど、前半はね・・・

オフィスで取引の交渉。裁判記録を封印する条件で、第2級謀殺、25年。それまで50年間封印してきた言葉を口にするスタインメッツ。「あの場にいなかったものには、分かりはしない・・・」 「決まりか?」というローウェンサールも、それに頷くストーンも、感情を隠せません。

同じ日の夕方。レポーターの質問に答えるストーンのニュース映像と、シフのオフィスでそれを見ている本人。珍しい画だし、とても印象的&効果的です。テレビに映っているストーンは、自信ありげな態度で公式な答を返している。その前に座っている方は、子犬のように不思議そうな顔をして画面を見ている。本当にこれでいいのか、自分は正しいことをしたのか、その答の手がかりを探しているように見える。エリック・ドルフが忍び込んできたよう・・・というのは見てる方の勝手な思い入れですねぇ。


[追記] 前半で、勧善懲悪ドラマについてちょっと書きました。社会問題を扱ったエピソードにおいて、簡単に解決しない対立(白人対黒人、中絶支持対反対、など)について分かりやすい答を提示していない。基本的に両方の立場を描いていて、番組の傾向がどちらにあるかはほのめかされるだけなんですね。

ただそれだと後味悪くなっちゃうので、ときには個人の犯罪とか悪徳に話を落とし込むことでドラマとしての形を整えている。そういう時は少しはぐらかされた感がありながらも感情的には納得してしまう(笑)たとえば人種間の対立を扱った1-11「終わらない憎しみ」なんかはそうです。黒人に対する法の不平等という問題には解決策が提示されないが、事件をでっちあげた議員があからさまな悪者に仕立てられているので、ロビネットがやりこめるとスカッとする。

このエピソード3-13も、やはり妻殺しという個人的犯罪に集中することで、戦争犯罪については断罪を避けて通っている。1-11ほど逃げられた感じはしないのは、途中と最後でストーンが迷い悩む描写があるせいかもしれません。でもだからこそ、裁判所前のベンチでのセリフに違和感があります。



いま読んでるもの 『ヒトラーの側近たち』大澤武男 『アイヒマン調書 イスラエル警察尋問録音記録』ヨッヘン・フォン・ラング編 小俣和一郎訳 岩波書店   
ドラマ版『ホロコースト』やエリック・ドルフの人物のなりたちをさぐり、最終的には"Hitler Meets Christ" に辿りつきたいのだけど、それは長い道のりになりそうです。

トリビア。この次のエピソード 3-14 "Promises to Keep"「秘められた思い」には、『ホロコースト』で主役ヨゼフ・ワイス医師を演じたフリッツ・ウィーバーが弁護士役で出演。変わらず気品のある姿を見せてます。