歌うベン・ストーン4 "Evil Dream"

 
まだオチも決まっていない妄想話の前半です。Law & Order と『空の大怪獣Q』の両方からキャラクターを借りてきました。Qを見ていない方には何のことやら、かもしれませんが、ご容赦ください。


「ジミー、ひとつ厄介なことがある。お前の仲間・・・強盗の二人が死亡した事件に、検事局が興味を持っているらしい」

ストーンが切り出した。二人はジミー・クィンの経営するピアノ・バーのカウンターに座っている。ストーンはクィンの民事訴訟での代理人だ。そんな昔の事件がなぜ今ごろ、と尋ねると、

「100万ドル返還訴訟のせいだ。市は金を払いたくないからお前の過去をつついている。あの件は立証しようがないと、俺の前任者の時代に結論が出てると言えばいいはずなんだが」
「じゃ、あんたが行くんだろ」
「ストーンだと言って会ってきてくれないか。担当の検事補はマッコイという」
「何だって?どうして俺が?!」
「俺は刑事法とは縁を切ったんだ。もう殺人だの何だのに関わりたくないんだよ。だから俺のふりをしてお前が」
「元検事のふりなんて俺には無理だよ!」
「ニューヨークの街を救った男に、無理なんてないさ」

へらへら笑っているストーンを見て、こいつ、俺のお株を奪いやがった、と思う。この男はあるときふらりと店に現われ、ピアノを弾くので言葉を交わすようになった。弁護士だというから100万ドルを市から取り返したいと相談したら、訴訟を成功報酬で引き受けてくれた。だが、最初はもっと真面目な奴に見えたのに、だんだんとタガの外れたところが目につくようになったのだ・・・・・

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検事補時代もベン・ストーンのことはよく知らなかったが、なんとなく印象が前と違うな。こんな落ち着きのない奴だったか、とマッコイは内心いぶかりながら相手をオフィスに通す。それに前より若く見える。もともと童顔で、若僧と思われるのを気にして老眼鏡を使っていたはずだが、今日はかけていないせいかもしれない。

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ジミーはストーンに指示されたとおりに話す。”プリマ・ファキエ”の正しい発音を書いたメモもちゃんと持ってきた。
「あの件はもう結論が出ている。ウェントワース時代のファイルがあるはずだ。死体もないし、二人の死亡の原因が特定できない、故に、訴因が確立できないってことだ」
「分かった。そのファイルの存在は私も把握している。市の方も本気で起訴できるとは信じていない」

ドアにノックの音がして、補佐らしい女性が書類を持ってきた。お、可愛いじゃん、と思ってつい見とれたのがいけなかった。目が合い、彼女が息をのむ。

「・・・・・あなた、誰よ?!」

しまった。ジミーは慌てて立ち上がり、噛みつきそうな顔で睨んでいる補佐から逃げようとする。オフィスのドアを開け、中のマッコイに大声で「な、これで不起訴は決まりだろ。あばよ」と呼びかけて踊るように去っていく。呆然とする職員たち。

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オフィスではクレア・キンケイドがパニックを起こしている。
「ジャック!あれはベンに見えるけどベンじゃない!」
「何を言ってるんだ、あれはストーンだろう。フリーになってから苦労したようだが」
「あたしはずっと一緒に仕事してたから判るわ!」
「たった9か月な」
「それでも歴代2位よ」
「そうだな。きみの場合、逃げ出したのは彼の方だった」

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あの女検事補、美人だけど怖かったな。ジミーが店の前まで帰ってくると、ピアノの音がかすかに聞こえる。ちくしょう、あいつが遊んでいる間、なんで俺があいつの仕事をしなきゃならないんだよ。舗道に立って窓から中を見ると、客はまあまあの入りだ。ストーンの歌う"Evil Dream"のスキャットが拍手を誘っている。俺の曲だ、とジミーは思う。

なぜだろう、やつが店に来るといつも原因不明のかすかな苛立ちを感じる。初めは遠慮がちだったくせに、勤めを辞めてからはすっかり大きな顔をして店に入り浸るようになった。ピアノ弾きは一人でいいのに。しかもあいつが俺に似ているせいでややこしいんだよ。ストーンとの関係を店の者や客に説明するのはめんどうなので「従兄のベン」ということにしてある。実際、どう説明していいのか自分でもわからないのだ。

だがジミーにはストーンが必要だ。100万ドルを取り返し、ソーホーにもっと広い店を出して、グランドピアノを置きたいのだ。ジョーンと赤ん坊の生活のために、どうしても。

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つづく