You Don't Know Me
Obviously, you don't know me. You never did.
君は私のことを全然わかっていない。今までも一度だって。
エピソード4-8 American Dream 「過去から届いた挑戦状」のラストシーンで、ジェリコ・イバネク演じるフィリップ・スワンにベン・ストーンが言う台詞です。
ストーンはスワンに取引条件を出す。証人殺しとともに、最初の殺人についても自白しろと。スワンにしてみれば、最初の殺人について勝ち取った無罪は自分のトロフィであり、簡単にあきらめられるものではない。とんでもない、と拒否したところでストーンはすげなく取引中止を宣言、スワンを拘置所へ戻すように言う。
スワンは自己愛性人格障害ぽい人物で、他人を支配し操ることに取り憑かれている。自分を投獄したストーンには特に強く執着していて、彼の注意を引き屈服させるためにはどんなことでもやる。簡単に言うとかまってほしいのです。なのでストーンがあっさり取引を諦めたのを見捨てられたように感じてすがりつきます。
It doesn't make any sense, Ben. You're being totally impractical. That's not like you.
ベン、こんなのは間違ってる。まったく非合理だ。君らしくないじゃないか。
それに対するストーンの答が、上記の台詞です。これをみると、スワンはストーンのことをpractical = 合理的、実際的な人間と思っていたのですね。常に冷静な判断をする法律の鬼と。スワンとしてはそういう人間をおちょくるのが無上の楽しみだった。
だけど・・・ストーンが合理的？シーズン4まで見ていれば、違うと分かりますよね。ぱっと見たところは能面だけど、実はわりと簡単に感情に流されるし、功を焦るところがあるかと思うと腹具合で取引を決めたり（これは実際的と言えなくもない）。実務家なだけなら上級検事補は務まるかもしれないけど、ドラマの主役は張れないからね（笑）
しかしそれ以外に、ストーンには他人が知らない面がたくさんあったんじゃないかという気がしています。たとえば罪悪感。普段あまり見せたことがないけど、エピソード4-1でそれについてちょっと語ってます。
ストーンは、ひとを断罪することに罪悪感があったのだろうか？私は、あったと思います。正義の追及自体は仕事だからそんなものを抱く必要はないけれど、仕事のプロセスに私的な感情が混じっているとしたら。（ドラマの役割は視聴者の感情を解放することだから、ストーンがそうするのは当然なのだけど）
シフがストーンを「自分の感情は、裁判所に入る前に道路に置いていけ。法廷の中では本物の人間が不利をこうむるのだから」と叱ったことがありました（2-13 Severance 「知略の攻防」）。4-19 Sanctuary でも、私的な怒りを発散するのに法廷を使っているかのような邪悪な笑みがみられます。そして上記の場面でスワンに見せる、復讐をとげて満足そうな冷たい笑顔・・・
自分の怒りを法律を利用して解消したと自覚していれば、ひそかに罪悪感を抱くこともあったでしょう。で、怒りにせよ罪悪感にせよ、ベン・ストーンは自分の感情を健康的な方法で処理することができない人なのです。だから最後のエピソードでも証人を死なせてしまったことに耐えられなかった。
マイケル・モリアーティはストーンのことを"inhibiting"と形容していたことがあります。「ベン・ストーンとの最後の日々」や「マイ・フェア・レディ」の項で書いた通り、こういう抑圧的なストーンが自分を縛っていたことに後から気がついたと。モリアーティも実をいうとストーンのことを完全には知らなかったわけです。
モリアーティ自身はわりと単純に「こっちは正義、あっちは悪」と言ってしまえる人です。もしかしたら検事の役で成功したことが影響しているんじゃないかと思いますが。ある意味、ストーンであり続けたかったのかもしれない。だけど、ストーンはそれよりもう少し複雑な人間だったと思います。
Obviously, you don't know me.
これはストーンからスワンに向けた台詞であるけれど、視聴者に向けた言葉でもあり、期せずしてストーンからモリアーティにも向けられていたような気がするのです。
スーパードラマTVの予定では、今日これから4-19 Sanctuary の放送、来週は4-22 Old Friends. Law & Order シーズン4の放送はこれで終了みたい。この10か月間、週に1回は出ていたストーンが、画面から姿を消します。もちろん録画やDVDがあれば観ることはできるけど、新しくストーンと出会う人はたぶんいなくなる。これを機会に、去年の夏から下書きのままの、モリアーティとストーンの別離を出そうと思っておりますが・・・ やっぱり辛いので遅々として進まず、今日のようにはっきりしない話をぐだぐだと書いております（笑）
