Law & Order 1-20 The Troubles 「テロリストの悲劇」

 
国際的な話にしたくてレバノンやシリアのテロ組織、キューバ・マフィアやバーダー・マインホフなどを出してきたけど、結局はアイルランドの地理と歴史をレクチャーされてしまうエピソード。

被告オコネルは表向きはシン・フェイン党員の政治理論家ながら、実はIRA活動家でもある。地名・人名にやたらとこだわる人物で、ローガンとグリービーが取り調べたときも二人の家系について質問します。ちょっとマニアックな印象だし、家名話で他人の感情を操ろうとする意図も見えます。でも地名や人名はその土地の歴史と深く結びついているものなので、善意にとれば祖国への愛着の表れだともいえます。

実際のところは、この人物の口を借りてアイルランド話をニューヨークに多いアイリッシュ系の視聴者にアピールしたかったのだと思います。エピソードの途中で、ストーンがシフに向かってアイルランド独立の歴史ダイジェストを語る場面もあります。この点、インターナショナルな話とみせかけて非常にローカルな意図を持っているという落差が面白かったです。

視聴者の反応への予測は、刑事二人の対応にあらわれています。ローガンはオコネルに乗せられて仲良くなってしまってる(笑)けど、グリービーは家系話にうんざりし、俺はニューヨーカーだと主張する。

きわめつけは、クライマックス直前、被告に対するストーンの反対尋問。質問が終わり、裁判長が「下がってよろしい」と言ったところで、オコネルがストーンに「こちらから一つ質問していいか?」と言い出します。

May I ask you a question? How, with the map of Donegal on your mug, did you ever end up with a name like Stone?
一つあなたに訊いていいか?ドニゴール県の地図のついたマグを使っているくせに、なぜストーンなどという名前なのだ?

Happenstance, sir. Same as you ended up with the name of a real Irish patriot.
偶然だ。あなたが本物のアイルランド愛国者と同じ名前なのと同じく。

ここ、字幕がちょっと苦しくて放送時には何のことかわからなかったんですが… オコネルの質問はたぶん、ストーンという姓がアイリッシュらしくないことを言っているんだと思います。(典型的なのだとMc- とか O' とかついてるし、グリービーなんかは「メイヨー県のグリービー家?」と二度も訊かれているのは有名な姓なんでしょうね。)

なぜオコネルはそんなことをわざわざ法廷で訊いたのか?家系フェチなのでどうしても知りたかったという設定なのか(笑) いや実際はストーンの答を引き出すための台詞なんでしょう。調べると「オコンネルのカトリック解放」というのが出てきます。ブリテンに併合され抑圧されていたアイルランドを解放しようと運動した弁護士ダニエル・オコネルのことを指して、あちらは本物の愛国者だがあなたはただのテロリストだ、と言いたかったわけです。


「なぜストーンなんて名前なのだ?」 実はマイケル・モリアーティが自分であちこちに書いているところによると、彼の祖母はノルウェイ系の人でストーンという旧姓だったのだとか。しかも名前がアダ(エイダ)、つまり続けると a.d.a. Stone = ストーン地方検事補。これは本当に偶然だそうです。(ベン・ストーンというキャラクター名はおそらくキャスティングの前から決まっていて、モリアーティとは関係なくつけられたのだと思う。)

マグは謎。このエピソードでは少なくとも映ってないみたい。それにオコネルは一度もストーンのオフィスに来ていないはず。IRAの情報網はそこまで掴んでいるという脅しだったのか・・・