メル・トーメ&マイケル・モリアーティ

 
街にクリスマス・ソングが響く季節になりました。そのうちで、こんな曲はご存知でしょうか。

暖炉ではぜる栗の実
つめたい空気に赤らむ鼻
聖歌隊のキャロルの調べに
エスキモーのように着膨れるひとびと・・・

歌詞は知らなくとも、メロディを耳にすればきっと「ああ知ってる」と思うはずです。最後に埋め込んでありますので聞いてみて下さい。これがメル・トーメの「ザ・クリスマス・ソング」です。

マイケル・モリアーティのアルバム Reaching Out の最後に入っている、メル・トーメによるインタビュー。少し前に "Evil Dream" ふたたび で一部引用しましたが、今週になってモリアーティ自身がこのインタビューに絡めてトーメの思い出を書いていたのを紹介します。

それによりますと・・・二人のそもそもの出会いは、私が推測したとおりベーシストのジェイ・レンハート経由だったそうです。最初に会った時にCDを渡したら、トーメはライナー・ノーツ提供を約束しただけでなく、それをインタビューの形で残せばいいと提案した。それでモリアーティは後日録音機を持ってワシントンDCまで出かけて行って、この会話を録音したらしい。

今週の記事では、当時の思い出のほかにトーメのいろいろな歌を紹介し、こんな大歌手がどうして自分の音楽をそれほど評価してくれたのかいまだにわからないけれど・・・としつつ、30年ちかく経った今では、その評価を素直に受け入れようと思う、と書いています。


れいのマダム・ジェルソミーナが約束しているので、このインタビューも近日中にYouTubeに上がると思います。彼が素の声で自分の音楽について語っているところは、ぜひ日本のファンにも聞いていただきたいです。内容は少しずつ日本語にしていこうと思います。今日ははじめの方、自分のバックグラウンドについて話している部分を。

[トーメ] ・・・あなたの仕事は、狭い枠にはまることがないのが素晴らしいよね。ミュージシャン/ソングライターとしてだけでなく、俳優としても。本当にさまざまな役を演じているし、その幅広さが音楽に現れていると思う。あなたは最初から俳優をめざしていた?それとも、これほど成功しているにもかかわらず、あなたにとって演劇は後からやってきたものなのだろうか?
 
[モリアーティ] 僕にとって、演劇は二番目だった。一番に愛したのは音楽だ。だけど僕の父は音楽についてあまりに詳しく、鋭い批評眼と耳を持っていた。だからひるんでしまったんだ...(アート・)テイタムを聴き慣れた父親の前でピアノを弾いてみるのを想像できるかい?その時の父の表情ときたら!それに僕自身もテイタムを聴いて育ち、それが普通のピアノ演奏だと思っていたから落ち込んだね。同じように弾こうとしてもできないんだから。だから音楽から逃げ出して、父がまったく知らない芸術分野に進みたいと思ったときに見つけたのが演劇だった。それで演劇の教育を受けた。だけど僕の初恋はやはり音楽なんだ。

ロンドン音楽演劇アカデミーと、ミネアポリスのガスリー劇場で演劇の教育を受けた話のあと、

[トーメ] あなたの音楽にはジャズの影響が大きいけれど、ジャンルにこだわってなくてすごくオリジナルだ。ジャズの方面で一番影響を与えたのは誰か知りたいのだけれど?

[モリアーティ] そうだね、最初はアート・テイタムだった。自分が彼のようには弾けないと分かった頃、マイルズ・デイビスのファンになった。ハイスクール時代、僕をずっと勇気づけてくれたのはマイルズだった...あの頃は、彼だけが僕に話しかけてくれる声だった。なぜかは分らないけれど、たぶん僕は孤独な子供だったから、マイルズの音の中にある孤独が、これは僕と同じだ、彼は僕に直接語りかけている、と感じさせたのだと思う。

その次はビル・エバンズだった。(この後は、ルート音を弾くか弾かないかという技術的な話につき中略。)

そして最近になって発見し勉強しているのが・・・いまクラシックの勉強に戻ろうとしていて、それを自分のジャズ・フィーリングと融合させたいと思っている。これでやっと自分の音楽の言葉ができたと思う、音楽で語る、ジャズで語るということがどういうことかはっきり分かるようになった。これでやっと自分のサウンドが、自分のものといえるサウンドができたんだ。

孤独な子供時代、父親への複雑な感情。音楽への情熱に、ジャズとクラシックの両方への傾倒。最初の数分で、彼の人生のキーワード(演劇を除いて)が全部出てきています。このあとも、アルバムのそれぞれの曲について熱の入ったトークが続きます。

実をいうと、彼の自伝や記事を読んでも、演劇について熱く語っているところは意外とないんです。ピーター・オトゥールアンソニー・ホプキンスなど、敬愛する俳優についてはときどき書いているけれど、自分の演技について詳しく書いているのはマイ・フェア・レディのヒギンズ教授役くらい。ベン・ストーンも、映像の分量からすると記述は少ないです。仕事(演技)より趣味(音楽)の方が書いてて楽しいのかもしれませんね。

メル・トーメに興味を持った方のために・・・YouTubeに動画たくさんありますが、冒頭の「ザ・クリスマス・ソング」を貼っておきます。モリアーティの音楽を絶賛した大歌手が、ジュディ・ガーランドと一緒にピアノの前で歌ってます。途中でジュディが歌詞の"reindeer"(トナカイ)を"rainbow"(虹)と歌っているところがあります。モリアーティは記事の中で、これは彼女の「虹の彼方に」とのマッシュアップだといってます・・・なかなかチャーミングな解釈ですね(笑)

[追記] 私のスマホではYouTube埋め込みが見られないようなので、他にも見られない方のためにリンクを置いておきます。変なマイナー機種(BB)を使っている私が悪いのかもしれませんが・・・

http://youtu.be/JOQ4JxPDXIU