Law & Order 2-22 Working Stiff 「虐げられる人々」


シーズン2、なぜかあまりレビューしてませんでした。どうもシーズン1と3に気に入ったエピソードが集中してるようで・・・なぜかはわからないけど。このエピソードの原題"Working stiff" は、「身を粉にして働く」という感じ。工場で地道に働く人々と、ウォール街の金の亡者の対比が描かれます。

ウォール街の拝金主義は90年代も今も変わらず。殺人のあったオフィスで、マネージャーが「会社にとって辛い時なんです」と言ったとたんに取引開始のベルが鳴り、みな一斉に電話に飛びつくのが象徴的。

それに対し、往年の西部劇の名優イーライ・ウォラック演じる、仕事を失った熟練工ビラニス氏が抗いがたく魅力的です。ジョーク混じりの毒舌、肺がんで明日をも知れない命なのにビールを飲みマルボロを吸う。古き良きアメリカの価値を代表していて、観る方はあっというまにこの人物に感情移入してしまう。さすが!というしかありません。


ウォール街の大物マクファデンが殺される。買収をしかけて組合に賃下げを飲ませ、銀行へ金を吸い上げておいて工場を閉鎖するという手口で知られた男。ハゲタカファンド、という感じかな。おかげで組合員たちは職ばかりでなく、医療保険や住むところまで失った。はじめは組合員のひとりビラニス氏に疑いの目が向くが、刑事も検事も彼が殺人犯だとは信じられない。

ラニス氏の苦境は、はじめ労災として労働省へ、そこから医療保険詐欺として司法省へ回り、マクファデンとファイブ・ボロ銀行は起訴目前だったことがわかる。ところが調査は潰された。

報告を受けたシフが、ファイブ・ボロ銀行の名にショックを受けた反応を見せる。ストーン(気遣うように)「アダム?どうしました?」 「ドワイト・コークランが会長だ」 「コークラン知事?もと州務長官*1、イギリス大使?あのコークラン?」 それがシフの旧友だった。

司法省から情報が漏れたとしか考えられない。調査に関わっていたスタッフのうち、コークランと繋がりのある一人を呼び出す。ストーンの見せ場その1です。いつものように脅しの言葉を口にするんですが、これをオフィスで壁にもたれるように立って言う。「あなたを殺人の共犯で起訴する」「そんなことできやしない」「できるし、間違いなくやるつもりだ」 やわそうなお坊ちゃん弁護士、これで秒殺です。

ストーンの見せ場その2、次の場面。シフのオフィスに、弾よけのようにコートをしょっておずおずと入ってくる。これ、笑うところですよね。

"Looks like a messenger who's afraid of being killed."  「殺されるのを恐れている使者のようだな」

ああ、だから弾よけなのか。悪い知らせをもたらした使者は、怒った受け取り手に撃たれてしまうことがある。転じて、「使者を撃つな」という言い方があります。

"I'm afraid the message might kill the recipient."  「受け取った側を殺しかねない知らせで」

司法省スタッフにコークランへのコネがあったことを遠慮がちな表情で報告するストーン。 シフ 「そいつは、マクファデン起訴の計画をコークランに話したのか?」

"I'm afraid so, Adam."   「 残念ながらそうです、アダム」

"Don't be. No fear, no favor." (Stone stares at Schiff) "You know, that's an old liberal muckraker's campaign slogan."
「残念がるな。"臆せず、容赦せず"だ」 ストーンがシフを問いかけるように見る。 「昔のリベラル系すっぱ抜き新聞のスローガンだよ」 笑みをかわす二人。

この場面・・・コークラン関与の真相究明が後戻りできなくなる転換点であり、シフにとっては辛い内容だけど、二人が抑えたユーモアを持ってやりとりしているので救いがあります。

記者会見でシフが捜査発表する。案の定、コークランとシフの関係が取りざたされる。ストーンはマスコミへの見た目を気にし、自分たちは利害関係を理由に捜査を降りるべきだというが、シフはコークランとは友人なだけで利害関係はないという。捜査を続行。

実行犯に渡った小切手の払い出し元の基金の名前に、シフが反応する。基金の受託者はコークラン。これがマクファデン殺しの報酬だ。ロビネットが、コークランに証言させ実行犯たちを起訴することを提案すると、シフはその逆を命令する。実行犯と取引し、コークランを挙げろと。友人に厳しいのか、友人だから厳しいのか。

裁判にて、実行犯の証言中に、シフが傍聴席へ入ってくる。小切手についての証言が得られたところで、ストーンと目が合う。実行犯はコークランとじかに接触し、小切手を渡され、以前に話した問題を片付けろ、と言われた。つまり、マクファデンを殺せと。ここでシフは出ていく。

裁判所の正面階段にレポーターが待ち構えている。シフは廷吏に言って裏から出してやれという。



シーズン・ファイナルにふさわしく、シフにスポットライトが当たって重厚なエピソードでした。が、コークランの人物像がちょっと弱かったのが残念。その分、イーライ・ウォラックに後半ももっと出てきて喋ってほしかった。私としてはストーンの「トレンチコートで弾よけ」が馬鹿っぽくて可愛く、ドアから入ってくる場面の表情は数少ないコミカルな演技として保存したいところです。
 
 

*1:ここ単に secretary of state と言ってるけど、たぶん国務長官じゃないですよね、それじゃ大物すぎる