Law & Order 1-1 Prescription for Death  「死の処方」

 
Law & Orderの最初のエピソードのテーマが「飲酒」だったのは、今から考えると皮肉というか暗い運命を感じます。放映開始当時(1990年)のマイケル・モリアーティはほとんど飲まない人だったのに、1994年に役を終える時にはすっかり酒が手放せなくなっており、2004年に断酒するまでの10年間はアルコール漬けの生活でした。

ただの気管支炎なのに死亡してしまった患者。父親が警察署(ここだけ36分署)に訴え出てくる。グリービーとローガンの捜査で、カルテの修正跡から、併用禁忌の薬が使われた可能性が出てくる。さらに内科部長が回診前に飲酒していた疑惑がもちあがる。クレイゲンのオフィスでの会話で、ローガンが「あの医者は酔っ払いに見えない」と主張すると、グリービーがクレイゲンに意味深長なことを言う「見かけは関係ないこと、知ってるよな」

クレイゲンは少し傷ついた反応を見せる。いぶかるローガンに語るところによると・・・過去にマックスと組んでたころに飲酒で問題があった。顔にも行動にも出ないから自分では何ともないと思っていたが、ある出来事をきっかけに自分が依存症だと悟り、AAをたずねたと。

この会話にずいぶんリアリティがあると思ったら、どうやらダン・フロレク自身も問題がないわけではなかったようです。

マイケル・モリアーティの1994年の日記The Gift of Stern Angelsに、彼が稽古場の大きな鏡を見ながら飲酒が自分の容貌を変えつつあることを観察する場面があります。頬がふっくらし、ウエストにも贅肉が一回り。スタジオの誰かが「彼は酒をやめるべきだ。顔に出ている」とささやくのが聞こえる。

(p.144)  鏡の中の自分はうるんだ目をしている。ポール・ソルビーノと同じ、クリス・ノスの、ダン・フロレクの顔に何度も見たのと同じ ─ 酒飲みの目。

内科部長を逮捕。レジデントやインターンや医者を取り調べ、証言を得る。裁判記録から過去の医療過誤ケースを見つける。亡くなった子供の母親の話を聞きに行く。母親が、医師が酒臭かったと言ったときのストーンとロビネットの反応が印象的でした。壁際のソファに並んで座っているロビネットは下を向き、ストーンは顔をそむけて窓の方を見る。「死なせた責任を認めてほしかった・・・あんなに可愛かったあの娘を」という台詞で二人の心に火がついたらしい。

法廷。ストーンは冷静に質問を進めます。弁護人は感じ悪く、証人に「火星からの殺人光線かも」とやり返される場面も(傍聴席から笑い)。しかし状況は検察に不利。シフとの作戦会議、過去にこの医師が関わった「不測の事態」による死が5件ある。だが証拠にはならない。ロビネットがいいポイントをつきます。自分が依存症と知りながら仕事前に飲んだなら"犯罪的無謀行為" です。犯罪は救命室ではなくその前のパーティで起きたんだ。

被告本人の証言、実績と信頼のある医師であることを陪審に印象づける。検察側の質問は午後から。ストーンはグリービーに何やら指示。戻ってきたグリービーが耳打ちすると、ストーンは「そんなに?」と驚く。バーボン・オン・ザ・ロックスを6杯。ここからが医師を立たせて飲酒運転のテストをするドラマチックなシーンです。

審理が終わると、手柄のグリービーが嬉しそうにやってきます。「おめでとう。どうやって分かった?」ストーン、ちょっと呻いただけですぐには答えません。訊いてほしくなかった、というように。「親父だ・・・毎日、昼飯時に」グリービーの顔から笑みが消えたところで幕。

このセリフも痛いほどリアルです。4年後のモリアーティの日記からふたたび引用。

(p.144)  私は自分の人生を依存症に明け渡そうとしているのだろうか?姉の、父の、母の、継母のものであった病に私を導こうというのは神の意志なのか?

マイケル・モリアーティの父親は医者で酒飲みで、かつ、文学や音楽に深い造詣があった人のようです。マイケルはアルコールが自分の家族を破壊したことを意識していて、酒を怖れ、近づかないようにしていた。1993年11月、リノ司法長官と出会うまでは。父親に対しても憎しみと怖れの両方を抱いていたようです。だけど1994年の日記が終わるころには、彼は父親の思い出と折り合いをつけ、父を尊敬している、誇りを持っていると何度も書いている。それが酒という同じ問題を抱えるようになってからだったのは皮肉なことだったと思います。


[追記] 何年か前に漫画家・吾妻ひでおの『失踪日記』が話題を呼びました。仕事を放り出して二度失踪したときと、アルコール依存症で入院した前後の話です。それはそれは壮絶な話なんですが、それを突き放したタッチと可愛らしいキャラで描いてあって。

Stern Angels とは比べものにならない高い完成度だけど、自分のことを残酷なくらい正直に見てるのは共通するなと思います。