Law & Order 1-9 Indifference  「親失格」

 
有名な実在事件をもとにした有名エピソードですね。

母親役の女優さんの演技がすごい。パイロット版で殺された議員の奥さん役で出てきた人ですが、あの良家の夫人と同じ人とはすぐにわからなかった。父親役は、クレア・キンケイドの元上司の判事役でも出てましたね。あちらでも、社会的地位はあるが内側は病んでいる人物でした。この二人で共依存の夫婦をリアルに演じてます。刑事パートで、ローガンの子供時代の被虐待トラウマが披露されるシーンもあります。また、シャンバラ・グリーン初登場の回でもあります。(追記:これは間違い。)

いろいろ話題はありますが、やはり一番印象的なのは、事件に対するストーンの怒りが露わになるところでしょう。シャンバラの存在がそれを一部中和する助けになっている。この二人のケミストリーは不思議。友情?リスペクト?何なんでしょうね。



罪状認否のシーンから。ストーンみずから出てきてる。勾留の裁定がされた後もシャンバラを睨んでます。(それとも見つめてるのか?)
分離裁判とするかどうかで判事に意見を訊かれる。ストーン、ここでは落ち着いて正論を述べてます。学校の先生の証言で、母親の有罪は取れそう。

シフとの会話。ストーン、心の裡を吐露します。わけのわからないものをなんとか説明しようとする手の動きが印象的です。迷うところがなさそうな事件なのに、何を悩んでいるのでしょうか。

The whole thing is unfathomable. I feel like I'm floating face down with a mile of black water between me and any reasonable explanation for this.
この事件は底なしです。まっ黒な水の上にうつぶせに浮いて、深いところにある真相をなんとか見分けようとしている気分だ。

Why does it have to be reasonable? 見分ける必要が?

Well, there's something going in here. It's not her, it's him. There's something depraved. 
まだ何かあるんです。妻じゃなく夫の方に。何か邪悪なものが。

All right. And what bothers you the most? わかった。何をそこまで悩んでいる?

Well, um..... (Shakes his head, and sighs. Then looks at Schiff) My own rage. (Sighs deeply) 
それは。。。(首を振り、ため息をつく。シフを見て) 私自身の怒り。(もう一度深いため息)

What do your guts tell you? 一体どうしたいのだ?

Put them both in a dungeon, put them on a wheel, (whispering) and annihilate them.  
二人とも地下牢に閉じ込め、拷問にかけ、(ささやくように)八つ裂きにしてやりたい。

シフは混乱しているストーンの話を聞いてやった上で、現実的なアドバイスを与える。よきコーチです。ストーンは自分の怒りにとらわれて方角を見失っている。こうやって感情を吐き出させ、正しい方向に鼻面を向けてやれば、あとはまっすぐ走るでしょう。

この会話の後、ストーンはシャンバラと打ち合わせ。シフと話してすっきりしたせいか、それとも彼女に会うのが嬉しいのか、微笑してます。

二人で交渉しているうちにとつぜん母親が「やりました」と言いだす。娘を調教するよう夫に指示されたと。シフのアドバイス通りにいきそうです。夫に対する証言と引き換えに第一級故殺で。この時のストーンの表情、ものすごく集中していて、獲物をみつけた猟犬を思わせます。

グリーン「父親は?」ストーン、口をゆがめて「奴?謀殺に決まってる」。すると母親がテーブルに頭を打ちつけて泣き出す。ぎくりとするストーン。この反応ちょっと笑いました。仕留めたと思ってた獲物が急に動いたときの犬みたい。

次が見せ場その1です。証言台の母親。性的虐待あり、愛情表現だと。ストーン険しい顔で被告席へ向かって歩いていく。襲いかかりたいのを隠していない。いろんなエピソードで証人や被告を脅しまくるストーンですが、普段使うのは目つきと言葉だけ。フィジカルな脅しはこの時だけかな。こんなでかいのが暴れたらどうやって止めればいいんだ?まっすぐ歩いてきて左手、自分の席の方へそれる。「質問は以上です」その場の全員がほっとしたに違いない。

ノックせずにオフィスへ入ってくるシャンバラ、また嬉しそうなストーン。横顔もサービスしてくれます。コカイン取引の情報提供。なぜ今頃情報を?利益相反はないのか?依頼人である母親はもう取引済だし「あたしは倫理上は白雪姫なの」。 顔を見合わせてにやりとするストーンとロビネット

父親への反対尋問、見せ場その2。ストーンはエキサイトして判事から注意されます。ため息。さらに質問。のらくらと逃げる被告。ストーンの目が光ります。血痕の写真を突きつけ、血の海に横たわっている娘をどうしたのかと問い詰める。やや上からの角度で、思いきり怖い表情のアップ。

珍しく評決場面は飛ばされ(まあ、有罪に決まってますね)、判事がもっとも重い量刑を言い渡す。そして、夫婦がエレベーターに乗せられて地下牢(本当は地下の駐車場だろうけど・・・)へと降りていくシーンでおしまい。



・・・・・観た人どなたもが感じることでしょうが、このエピソードのストーンには、スタインバーグ事件に対するモリアーティ自身の感情が反映されているように思えます。それは"My own rage" 「私自身の怒り」というときの声に表れている。

もちろん、当時この事件を知った人のほとんどが怒りを抱いたのでしょうが、両親とも「支配的なアルコール依存症患者」であったという彼には特別な思いがあったかもしれません。それを演技に昇華させ、視聴者の感情にはけ口を与える。ベン・ストーンはまさにこのために存在するキャラクターでありました。