サム・ウォーターストン&マイケル・モリアーティ つづき

昨日の記事、撮影現場のことを私自身よくわからないまま書いていたので、ちょっと補足する必要を感じました。「自分の番」ってどういうことか。なぜ二人が自分の番を最後にしたがるのか。以下、NYTの記事をもとに単なる想像で書いてますので、もし実際をご存知で「違うよ!」っていう方がありましたらぜひお教え下さい。

次席検事、検事補、弁護士の三人のこんなシークエンスがあるとします。
次席検事「彼が犯人だ」 弁護士「物証はない」 検事補「こっちには証人がいる」

これをそれぞれ喋っている人物のクロースアップ(1カットに1人しか映っていない)とする場合、3カットまたはそれ以上になる。撮影するときは、カメラ等の角度がありますからいっぺんに続けては撮れません。どうするかというと、

1.(次席検事)次席検事「彼が犯人だ」 弁護士「物証はない」 検事補「こっちには証人がいる」
2.(弁護士) 次席検事「彼が犯人だ」 弁護士「物証はない」 検事補「こっちには証人がいる」
3.(検事補) 次席検事「彼が犯人だ」 弁護士「物証はない」 検事補「こっちには証人がいる」

この3シリーズを演じ、それぞれ数字の後の人物に照明、カメラ、マイクを向けて撮ります。セリフの前後の喋っていないときも、相手役への反応(表情の変化、動きを目で追うなど)を撮り続ける。1,2,3をどうカットして繋げるかはのちの編集次第ですが、太字のところを主に使います。

リハーサルとNGなどで1シリーズにつき4回やり直すとすると、この3人は同じシークエンスを合計12回演じることになります。

この場合、主役の次席検事は1を撮ってしまえば、2と3は代役にまかせることができる。シーンの最後だったら衣装を脱いでくつろいでいていいし、その日の撮影分の最後だったら、帰ってしまうことだってできる。

ところがウォーターストンは1を最後にもってきたがった。
2.(弁護士)   マッコイ「彼が犯人だ」 弁護士「物証はない」 キンケイド「こっちには証人がいる」x4回
3.(キンケイド) マッコイ「彼が犯人だ」 弁護士「物証はない」 キンケイド「こっちには証人がいる」x4回
1.(マッコイ)  マッコイ「彼が犯人だ」 弁護士「物証はない」 キンケイド「こっちには証人がいる」x4回

こうなります。こうすると、マッコイにカメラを向けて撮影するまでに、シークエンスをすでに8回演じていることになります。だから「その方がたくさんリハーサルできる」というわけです。主役が最後まで頑張ってるんだから、相手役も気が抜けませんね。

うむむ。もしこの通りなら、チームとしてはこの方がうまく機能しそうな気がします。毎週毎週、何年間も一緒に仕事をするわけだから、リーダーの行いはメンバーの士気に影響するだろうし。この記事からするとまだ数エピソードしか撮影していないのに、ウォーターストンはすでにスタッフから尊敬をかちえているようですね。

一方、モリアーティの場合はどうだったかというと、
2.(弁護士)  ストーン「彼が犯人だ」 弁護士「物証はない」 ロビネット「こっちには証人がいる」x4回
3.(ロビネット)ストーン「彼が犯人だ」 弁護士「物証はない」  ビネット「こっちには証人がいる」x4回
1.(ストーン) ストーン「彼が犯人だ」     「        」       「              」x4回

こうですね。空白の部分は、相手役のセリフと動きを自分の頭の中でおぎなって、それぞれへのリアクションを演じるわけです。この場合、ひとりで演じる分の順番は別に何でもいい。だけど、ストーンを最後にすれば、弁護士とロビネットは2と3を撮り終わったら仕事は終わり、早く帰れることになります。

共演者にとってはどうかなぁ。他の人が真似できることではないようだし、チームワークにも貢献しない。「相手役がいない方がいい」というのは傲慢な感じすらします。相手役の演技が自分のイメージと違うのが嫌なんでしょうけど。やっぱり天才型。

前から気になってるのが・・・・L&Oに限らずモリアーティの演技で、特に相手役のセリフに反応するときに ”ここでうなずく” ”視線を上げ、次に横を見る”っていう風に表情がデジタルに変わっていく感じがすることがある。下手ってわけじゃなく、逆にテクニカルに過ぎるというか。。。素人にはうまく言えないけど、そういう時はなんか自然じゃないの。たとえ相手役と一緒に演じてても、頭の中で自分の演技を追ってるなら、そういうこともあるのかなーと思いました。

ただし、L&Oパイロット版の後も一人芝居方式を続けてたとは限らない。モリアーティは何かのインタビューで「L&Oで働く間にリーダーシップを学んだ」と語ってたから、チームで仕事することに適応したかも・・・でも「同じ現場は6週間が限界」とも言ってる。人間関係のゴタゴタに耐えられないって。それは、すごくわかる気がする。そう・・・これだけ繊細な人なのに、よく4年も耐えたよね。おつかれさまでした。。。