シャンバラとマリオン

 
このところベン・ストーンやJ.C.カミナーの女性との関わり方が気になってます。二人とも、頭がよく気の強い女性に主導権を握ってほしいくせに、そういう女性によって去勢され変えられてしまうことに言われのない恐怖を抱いている。支配しつつ完全に受け入れ、一人前の男として認めてほしい──シャンバラやマリオンは、そのややこしいわがままを叶えてくれる理想の存在のようです。

その矛盾した性向がよく表われていると思うのが、エピソード1-2「隠された過去」で”シャンバラ・グリーンにオフィスのドアを開けてやる”シーンです。なんということはない仕草のはずなのに、なかなか微妙な含蓄があっていろいろと妄想を誘います。この場面にこだわりがある私は前の記事でもしつこく描写してますが、もう一度やってみます。

シャンバラは有能で確たる信念があり、それを貫き通してストーンを負かすだけの強さを持っています。でもおそらく素直な性格のせいでしょう、相手のことを力でねじ伏せるのではなく、尊重しつつ対等に張り合おうとする。オフィスでの丁々発止のやりとりの間にストーンは理想の女性を発見するわけですが、そのことを自覚しているのかいないのか。

ベン・ストーンはこの場面で、心の中では喜んで彼女に屈服しながら、あるいはだからこそ、表面上は女性の庇護者たる紳士としてふるまい、自分が男性であることを誇示しています。これが、他の映画や著作で明らかなとおり、デトロイトなんて北部の工業都市出身のくせに南部紳士の優雅なマナーや言葉に憧れているモリアーティそのものなんですが、それが脚本のテーマ(シャンバラの代表するフェミニズムと、ストーンやシフの持つ男性優位の価値観の対立)とも合致しているところがよくできていると思います。

ストーンはまず彼女のコートを持って着せかけようとします(女性の庇護者たる男性)。でもシャンバラはそれを拒否してコートを手で取り上げる(自立した女性)。自分でドアを開けて出て行こうとするのを彼はさえぎってドアを開けてやりますが、このとき手だけ出すのではなく腰から割って入ってます。この動き。シャンバラとの会話について「押したり、引いたり、ダンスをしているよう」とコメントをいただいたことがありましたが、まさにその通り、すごくフィジカルでセクシュアルなやりとりだと思います。なんだか屈折しているしおそろしく微妙ではありますが。

ベン・ストーンがセクシーじゃないなんて、誰が言ったんだよ!(だから、誰も言ってないって)


ところで、頭が良く力を持った相手に自分を100%受け入れてほしい。そしてできることなら相手から働きかけてほしい、自分は受け身でいたい。というのは、男性においてはやや奇異に思えますが、女性だったら多くの人に共通するお姫様願望なのではないでしょうか。ふむ。お姫様なのかマイケル。

それで面白いのが、モリアーティの自伝The Gift of Stern Angelsの一節で、自分の中の女性について語っているところです。ですがちょっと別の話になっちゃうし、時間もないことなので、それは別の記事にて。