Law & Order 1-12 Life Choice  「生命の行方」


妊娠中絶反対の話が出たのでこのエピソードを取り上げようと思いました。Pro-Life (中絶反対)とPro-Choice (中絶擁護)の対立がテーマです。二つの団体名もわかりやすい。爆破犯人の主催していた抗議団体は Women for Life(命を守る女性の会)、中絶クリニックの名前は Chelsea Women's Choice Center(女性の選択センター)。

日本では妊娠中絶はおもに個人の性道徳の問題ととらえられます。けれどアメリカでは宗教的信条に関わる社会問題なので、もっとシリアスな議論、ときには暴力的な争いとなる。この辺は日本人にはぴんと来にくいところであります。

このエピソードでは、中絶賛成派の方がまとも、反対派の方が感情的・エキセントリックに描かれており、番組の共感がリベラル側にあることははっきりしております。しかし社会での厳しい対立を反映して、登場人物どうしも激しく議論します。まずグリービーとローガン。

抗議団体の代表にローガンが「この国では中絶は合法だ」と声を荒げる。捜査の合間にもグリービーと言い争う。「あいつら頭がおかしい」「中絶反対派はみんな爆弾魔か?」しまいにはオフィスで喧嘩を始め、クレイゲンに仲裁されるしまつ。

被害者の両親も。父親は娘が亡くなったのを殉教とみなし、あまり悲しんでいない*1。母親はそのことを不満に思っている。

グリービーは職務には忠実だが、抗議団体には同情的。検察でもそういう発言をし、言いたいことを言って出ていってしまう。このとき、ストーンは何も言わないけれどグリービーに共感しているように見える。

検察の中でも対立があります。シフに「この事件を降りるか」と訊かれたストーンは怒っております。グリービーとほぼ同じ立場です。

That's insulting. I'm personally against abortion means I can't prosecute a bomber? What I believe doesn't matter. I represent the law.
それは侮辱です。個人的には中絶反対だが、爆破犯を起訴する能力に影響はない。個人的信条に関係なく、法を執行するだけです。

二人が言い合っている間、ロビネットは関わるまいとして資料を読んでる(笑) シフは「男三人で女性の権利を論じるのも一方的だ」と言い、ストーンはまた同じことを繰り返す。堂々巡りです。

爆弾を作成した若い女を起訴したあとで、被害者は実行犯ではなかったという真相がわかり、ストーンは代表を起訴。取引を断った彼女に「考え直すべきだ」といったら、「悪魔と取引はしない」と返される。俺が悪魔かい!って心外そうな顔してます(笑)

裁判も終盤になって、被告みずからの証言にて、爆破はしたが神の前では無罪、と主張する。なぜ私を起訴したの?あなたは洗礼を受けてるし教会にも通ってることは調べてある。*2(わー、ストーカー?) 判事の制止もかまわず、立ち上がって話し続ける。 中絶は殺人です!・・・中絶医が子宮に手をつっこみ、神の造りたもうた子供を絞め殺すのをどうして放置するの?

ああ勘弁してくれ。実は、モリアーティはREELTALKの初回でもこれとそっくりな話をオードリーとしていたのです。中絶の模様を映したビデオがあり、中絶賛成派ですらそれは酷くて見られないという。見られないくらいならやらなきゃいいのに!と。*3

演説をやめない被告を判事は退廷させようとするが、ストーンが「ひとつだけ質問が」と立ち上がる。中絶が罪なら、被害者の胎児を殺したことはどうなる? あざやかな切り返し。かっこいい!と胸がすっとする場面のはずなんですが、ね・・・。せっかくドラマチックな場面なのに、この狂信的な代表の姿がモリアーティ自身と重なってどうにも居心地が悪い(泣)

モリアーティは主張し足りなかったのか、タグでもまだやってます。前半でグリービーが言ってた台詞とかぶってるのに。

But up until Roe v Wade, abortionists were the criminals. If the law hadn't changed, then there wouldn't have been a bombing.
ロウ対ウェイド判決までは、中絶は犯罪だった。法律さえ変わらなければ、爆破事件もなかったはずだ。

If the law hadn't changed I'd be a slave. You can't turn back the clock.
法律が変わらなければ、私は奴隷のままです。時計の針を戻すことはできない。

ストーンのセリフはたぶんモリアーティが言わせたんじゃないかと思います。脚本家はロビネットの返しでうまく処理しましたね(笑)
 

*1:父親自身が狂信的な活動家だったのでないかぎり、この設定はちょっと無理がある気がする。

*2:ここ、「教会」と訳しましたが、ローズの台詞は"communion"(ミサで行われる聖体拝領のこと)と言っているので、ストーンがカソリックであり当然中絶反対であることを示唆しています

*3:それを言うなら、食用のチキンを屠殺するビデオだって私は見たくないぞ。でも、だからといってチキンを食うなとは誰も言わない。これについては反論したいことがいっぱいある・・・宗教論みたいになっちゃうので書かないけど。