"Spring Never Happens"
マイケル・モリアーティのアルバム Reaching Out から、最後に残っていた一曲がYTにアップされました。 "Evil Dream" は別格として、私が一番気に入っていた美しい曲なので嬉しいです。
花を探しても春は来ない、自己憐憫にかたまった心では
空飛ぶ小鳥をみつけて、一緒に口ずさもう
決して叶わぬとわかっている夢の歌を
列に並んでも春は来ない、ありきたりの兆しを待っていても
雪の中には、子供たちの行く場所がある
春はただやって来るんじゃないと知っているのを忘れるために
メル・トーメとのインタビューのうち、この曲について喋っている部分。
[トーメ] この歌を聴いて気に入ったのは、もし間違っていたら教えてほしいのだが、春が来るのを当たり前と思っちゃいけない、自分から手を延ばさなければ (reach out) という歌だと思ったんだ。そして、手を差しのべるというのはこのアルバム自体のテーマでもある。
[モリアーティ] そう、まさにその通り。冬のさなかにあって春を切望し、落ち込む気持ち、そして無理に春を求めてもそれは得られないという。
平易な言葉とメロディ。素直な歌い方やハープの音色もそれにマッチしています。でも歌詞には雪を割って頭をのぞかせるクロッカスのような(画像のとおり)はかなさの中に秘められた力強さがある。自己憐憫 Self-pity という語と小鳥の組み合わせが、D.H.ロレンスの詩を連想させるせいかも。
野生のものが
自身を憐れむのを見たことがない。
凍えて枝から落ちる小鳥は
みずからを哀れとは決して思わぬ。
けれど、こうやって解釈してみても最後の "spring" の美しさにはかないません。少し暗めのトーンで始まった後に、陽射しに向かって面を上げる花のように震え、晴れやかになってからフェイドアウトする。この一言に、歌い手の言いたかったことが全部込められている感じがします。
モリアーティの作品に接していつも思うことですが、この人は文章にこだわり、いろいろと言葉を尽くすわりに、結局はこういう非言語的な部分でその百倍のことを表現してしまう。書き手よりやっぱりパフォーマーなんですね。