Law & Order CI 2-7 Tomorrow 「悲しき妄想の果てに」

  
突然ですが、L&Oクリミナル・インテントです。なぜかというと、先週放送のプライム8-1「スリルを求めて」でマッコイにいいように利用されていた情けない弁護士、スタン・シャテンスティーンが再登場しているからなんですね。検察にとって利用価値の高いダメぶりが買われたのか。今回もゴーレンとカーバーによって便利なツールとして使われてしまいます(笑)

主人公は、辛い現実から逃れようと、メロドラマのストーリーを自分の妄想に織り込んでしまった姉妹です。家族の愛に飢えて育った少女が、妹を支配下におき、ドラマどおりの疑似家族を作ろうとしたが、その世界は当然崩壊し悲劇にいたる・・・という話。貧困の中で育った姉妹と、彼女らを安く雇うマンハッタンの富裕層の対比が描かれ、使用人を人間とも思わない金持ちにイームズ刑事が怒りを表す描写もあります。

シャテンスティーンもいい味出してますが、なんといっても、姉のハナ・プライスを演じたメリット・ウィバーが見事です。クライマックスでのゴーレンとの演技は一見の価値があります。この人、別のドラマでエミー賞助演女優賞の候補にもなってる。


裕福なダベンポート家の高級アパートメントで、前妻の娘アマンダと息子リック、そのルームメイトが殺される事件が発生。現妻の幼い娘の養育係はサラ。隣人の娘にもハナという名の養育係がいて、二人は友達同士だという。

二人に疑いをもった刑事たちの捜査で、ハナとサラは実は姉妹だとわかる。母親は投獄されエイズで死亡、父親は行方不明という環境で、妹のサラだけが普通の家庭に引き取られたが、問題児だったハナは引き取り手がおらず、矯正施設で育った。ハナは自分のことは諦めていたが、サラにはいい環境で育ってほしいと願っていたらしい。その代わり、いつか父親が戻ってきてくれることを信じていた。成人したハナはニューヨークで養育係の仕事を見つけ、その隣人ダベンポート家の使用人を追い出して後釜にサラを呼び寄せ、他人のふりをして隣どうしで働いていた・・・ここまでが前半。

姉妹は Shadow of Tomorrow という「下らないけど無害なソープオペラ」を録画してコレクションしていた。出自に秘密がある女性主人公の波乱万丈のメロドラマ。「本当の(そして金持ちの)父親にいつかめぐり合える」という貴種流離譚ぽいテーマらしい。テープを押収したゴーレン刑事、1996年から前年(2001年か)までのエピソードを全部見る(お疲れさん)。そのいくつもが、姉妹の周りで起こった出来事と符合している。

カーバー検事補 「このドラマが、彼女たちの台本なのか」 ゴーレン刑事 「二人にとっては、これこそが現実の人生なんだ」

ハナにとっては、被害者の父親ダベンポート氏が「いつか戻ってきてくれるはずの本当の父親」に見えていたらしい。彼の持ち物も盗んでいた。リックがそれをネタにハナを脅し、自分や友達と寝るよう強要したことが殺人の動機と見当をつけたゴーレン、カーバー検事補と一芝居を計画します。つまり、姉妹を逮捕しておいて、妹のサラだけがダベンポートに救われると見せかけ、独占欲を抑えきれないハナが二人の犯行の全容をばらすことを狙おうというのです。

ゴーレン刑事     「公選弁護人で一番できが悪いのは誰だ?」
カーバー検事補   「簡単だ。スタン・シャテンスティーン」
ゴーレン刑事     「仮定の話だが・・・二人の被告にシャテンスティーン氏を割り当てたい場合、どうすればいい?」
カーバー検事補   「仮定の話だが・・・彼は夜間法廷の担当だから、夜7時以降に逮捕すればいい」

ここから先は、全部ゴーレンとカーバーが仕組んだ芝居です。

取調室にて、サラとシャテンスティーン、刑事たちとカーバー。
シャテンスティーン 「えー、第一級謀殺・・・ということは、極刑もありってこと?あわわ」
この頼りなーい弁護士をかたわらに、ゴーレンとイームズから交互にじわじわと責め立てられるサラ。ですが、サラはハナをかばい通します。

留置場。監房に入れられた姉妹の前で、
イームズ刑事    「検事は明日SVDFをそちらへ送ると」
シャテンスティーン 「オーケイ」と言ってから、「あー、それは何?」
ゴーレン刑事    「極刑事件用の特別書式だ。あんた、極刑事件は扱ったことがないようだな?」
シャテンスティーン 「おお、あうあう」 監房の中からハナとサラの不安そうな視線を感じ、そそくさと去るシャテンスティーン。

誰もいなくなった夜の留置場で、あたしたちどうなるの?と泣きだす妹を抱きしめ、満足そうにその背をなでるハナ。

翌日、罪状認否。シャテンスティーンが姉妹の代理をしているところへ、有能そうな女性弁護士がやってくる。「判事、私が弁護を担当します」 「両名とも?」 「いえ、サラ・エルドンのみです。分離裁判を申し立てます」 「よろしい。シャテンスティーン君、何か言うことは?」 「あの、あの、今のところ何も、判事」 カーバー、保釈なし勾留を要求。女性弁護士の弁舌で、サラのみ保釈、ハナは勾留に。引き離される二人、動揺するハナ。

次がクライマックスです。拘置所で、ハナがベンチに手錠でつながれて一人座っている。ガラスの仕切り越しに見えるオフィスでは、サラが女性弁護士と雇い主のダベンポート氏に囲まれ、保釈手続きをしている。声は聞こえない。ゴーレンがやってくる。「サラの弁護士は有能だ、心配するな。シャテンスティーン氏から分離裁判の説明は受けたか?」 ハナはすこし離れて座っているゴーレンと話しながらも、手の届かないサラの姿に引きつけられている。

ガラスに貼りついてサラの注意を引こうとしているハナに、ゴーレンが背後から語りかける。「きみとサラは別々に裁かれる。サラはいずれ、弁護士の言うとおりきみに不利な証言をするだろう」 (座って書類にサインするサラに、かがみこんで話しかけるダベンポート氏。その姿はハナが求め続けて得られなかった家族そのもの。) ゴーレン「昔と同じだね。普通はきょうだいは一緒に引き取られるのに、きみは施設に残った。妹のために自分を犠牲にして。サラは恵まれているな」 手錠をはずしてやるゴーレン。このあたりから、半泣きのハナの表情に暗い怒りが混じり始める。 「ほら、ダベンポートを見てみろ。サラの本当の父親のようだ。 あの二人が偶然出会ったのは運命だな」 「違う、あたしがサラに仕事を紹介したの」 「そうだな。不公平じゃないか。彼に近づくため、きみはあんなに努力したのに。初めて会ったとき、彼はきみが待ち続けていた本当の父親のように見えたのか?」 

ハナの顔にはいろんな感情が交互に浮かびます。妹に幸せになってほしい気持ちと、愛する者を奪われる悲しみ、サラに裏切られ、ひとり不幸に突き落とされる理不尽さへの怒りがいちどに襲ってきているのが見える。この状況は子供の時と同じ。唯一の家族を奪われ、自分だけがまた惨めな囚われの身になるなんて。

窓のむこうでは、立ち上がってオフィスを去ろうとする一行。ハナに囁き続けるゴーレン。「見てみろ、二人で家に帰っていく。次に法廷で会うときは、彼女はきみがやったと証言する」 「嘘よ!」 「サラは死んだアマンダの代わりに、ダベンポートの娘になる。まるできみなんか存在しなかったかのように」 ハナはもうゴーレンにかまう余裕がなく、立ち上がってサラ!と叫ぶ。振り向いたサラに微笑みかけるハナ。「あいつらは豚だったでしょ!あたしたちのことを笑ったじゃない!」 恐怖におののいた表情で顔をそむけ、立ち去ろうとするサラ。 ハナ、今度はその場にいる全員に向かって叫ぶ。 「全部喋ってやる!サラが手伝ったのよ!あたしがベッドでリックを殺すのを!妹が手伝ったの!それにアマンダを呼ぶことを思いついたのも。アマンダを殺したのはサラなのよ!」 逃げるように出ていくサラの後ろ姿に絶叫する。 「サラ!サラ!あたしの妹を返して!あたしのサラを返して!」 くずおれるように取り押さえられ、連れられていく。 

一部始終を見ていたカーバーがゴーレンに話しかける。もちろん、サラの弁護人や取引は見せかけで、カーバーは初めから両方訴追するつもりだったんです。ダベンポートが使用人のサラを養女にするなんて実際にはありえない。ハナが妹をかばうのを防ぐため、彼女の妄想に合わせた芝居をうって二人の間にくさびを打ち込み、真相を暴露させたわけ。なんて残酷な。

カーバー検事補 Well, our little play worked. She gave up her sister.
ゴーレン刑事   Gave up. Yes..... and no.

最後のセリフはちょっと説明がいるかも。"Give up" に二通りの意味があります。カーバーは「もくろみ通り、やはり妹を売ったな」という意味で "She gave up her sister." と言ったのですが、ゴーレンは "Yes" と言ってから、「だが妹のことを手放さなかった(=自分と一緒に引きずり込んだ)」という意味で "No (she didn't give her up.)" と付け足したのですね。

考えてみれば、ゴーレンのやったことは、ハナがふたたび自分を妹の犠牲にすることを防ぎ、姉妹が公平に刑罰を受けられるようにしてやったわけで、残酷だけどある意味ハナに優しかったともいえます。


さて、どうやって締めようか。この話はドノフリオというよりゲストの演技がすごくて、一度見て下さいとしか言えないんだけど・・・CIのこんな古いエピソードをどうやって見ろと(笑)

トリビアとして、エンドウ豆とコーンが証拠というゴーレンに、「ライマ豆がないとサコタッシュは作れない」とカーバーが言うところ。さすがのゴーレンも「サコタッシュ?」と聞き返してます。料理に詳しいはずなのに(笑) 調べるとサコタッシュはネイティブ・アメリカンの料理で、ライマ豆とコーンで作るのだとか。ハービー・ハンコックに「サコタッシュ」という曲があり、こちらはスネアブラシが"succotash" と聞こえるからだそうです。