この人になぜ魅かれるのか…その人生が舞台以上にドラマチックだからかもしれません。

70年代はじめ、マイケル・モリアーティは「もっとも期待される新人俳優」の一人だったそうです。ハリウッドの主流ではいまいちだったが、舞台やテレビシリーズで活躍。90年からLaw & Orderでストーン検事役を得て、エミー賞にもノミネートされてますね。(ベン・ストーン時代の毎年、ドラマシリーズ部門主演男優賞候補となったが、いずれも受賞はしていない。その他に『ガラスの動物園』、『ホロコースト』、『DEAN/ディーン』でエミー賞受賞)

ところがその順調な役者生活にとつぜんの暗雲が。暴力表現をめぐって司法長官(本物!)との対決のあげくに降板。そのあたりから過激な政治思想を披露するようになる。亡命と称してカナダへ移住。煙草と酒浸りの生活を送る。フィルモグラフィを見るとその間もテレビ・映画出演は続けているけれど、Law & Orderの人気が戻ることはなかったようです。

ある時点で、それまでのキャリア、名声、家族を捨て、すっかり違う人になってしまったように見えます。でも「出演作が司法省から批判された」だけでそこまでするでしょうか?それまで温和なリベラルとみなされていた人がキチガイぽい極右思想を声高に語り、民主党からイスラムジョージ・W・ブッシュまで無差別攻撃。自分を社会的に抹殺するだけでは足りないかのように、ニコチンとアルコールと暴力で自らを痛めつけ続けたのはなぜなのか。おそらく、作品や新聞記事をいくら漁ったところで凡人に理解することはできないでしょう。でも何が起きたのか知りたい。

93年から94年にかけて、彼の中でなんらかの危機があったのは間違いないようです。このころに撮影されたL&Oのシーズン4が今ちょうど日本で放映されています。そう思って観るせいでしょうが、その兆しのようなものが細かいところに影を落としている気がします。

唐突な怒り(セリフは台本通りなんだろうけど、その激しさにちょっと驚き。それまでの抑制のきいたキャラとの違いに不安を感じました)とか、

あのベルベットボイスが度々かすれている場面があるとか…

思うに、司法当局やプロデューサーとの対立は不幸なタイミングで起こった「最後の一押し」じゃないでしょうか。ちなみに降板の理由について、俳優本人は「表現の自由の封殺に抗議して辞めた」と言っているけれどプロデューサー側の言い分は「素行不良でクビ」だそうで。真相は不明のまま。まあ、ありがちな話ですけどね。

俳優が心を病むと、「役に入り込みすぎて」という話がささやかれたりしますが、この人はそういうイメージとはちょっと違うかな。むしろもとから破滅型の人、という感じがします(ヒドイ)

そんな彼も2000年代に入ってからはアルコール依存症から脱して穏やかに暮らしているそう。よかった。パートナーの名前は数年ごとに変わっていて、おじいちゃんになってもモテてるようです。